仮免試験・二次選考
けたたましいベルの音で始まった二次試験。 大規模テロが発生した被災地で、市民の救助を行うというシナリオ。 こちらも経験数がものを言いそうな内容だけれど、物怖じしてる暇はない。 緑谷くんが子供を保護し、他の雄英生も次々と役割を見付けていく。 学校の括りも外れて連携を取る受験生達に混ざって、私も奥へと駆けた。 「こっちだ、瓦礫の向こうに取り残されてる!」 「誰かこの向こうに行けるやつは!?」 パワータイプの"個性"の受験生が崩れかけた柱を支えながら、飛行タイプの"個性"の受験生が瓦礫の先へ羽ばたいていった。 程なくして抱きかかえられてやってきたのは、一人の女性。 顔をしかめながら血糊が付いた右足を押さえている。 「私が容体を確認するので、お二人は別の場所へ!」 強い力も地形に左右されない移動方法も、この被災地では重宝される"個性"だ。 私の"個性"で活躍するのは難しそうなので、一般的な救護に回るしかない。 「……よし、大きな怪我ではありません。立てますか?」 「イタイッ!痛くて無理だよ!」 右足の怪我の状態と、他に大きな怪我がないことを確認した後声を掛けたけれど、女性はうずくまって立ち上がろうとしなかった。 「じゃあ……私が支えます。片足に体重を掛けて」 「イテテ……歩けたもんじゃないよ!」 「大丈夫です。救護所はすぐそこですから、少しだけがんばって!」 HUCのリアルな演技につい焦りそうになるけれど、顔には出さないように努める。 被災したという事実がこの女性を弱くしているんだろう。 客観的に見ると大きな傷ではないけれど、外傷だけが怪我じゃない。心のケアだって重要だ。 時にはオールマイトのような無敵の笑顔で勇気づけたり、時にはお母さんのようにそっと寄り添ったり……こういうとき、お母さんなら的確な言葉をあげられたかもしれない。 私ではとっさに上手い言葉が浮かばなかった。 女性は終始文句を言いながらも、体を支えれば歩いてくれた。 大丈夫、大丈夫と同じ言葉を繰り返しながら、なんとか救護所に辿り着く。 既に何人か運ばれていて、受験生達が慌ただしく動き回っていた。 「その人怪我の状態は?」 「右足に軽い擦り傷があります。その他目立った外傷はなくて、痛みの訴えもありません。あと……」 私の言葉を聞きながらテキパキと女性の状態を確認する受験生。 「この人は右手のスペースに案内して、それで――」 傷の具合によって分けられたスペースの内、右側は軽傷者が集められている。 ちょうど緑谷くんが保護した子をそこへ連れてきて、被災地へとんぼ返りするところだった。 そんな中、泣き声が耳に届く。 見れば、腕に包帯を巻かれた泣きじゃくる子供が一人。 この子供もHUCで、これも要救護者としての演技なんだろうけれど……試験だから救助スペースに運んで処置すれば終わり、というわけではないらしい。 子供の目線にしゃがんで、声を掛ける。 「僕、どこか痛いの?」 「ひっく……ママぁー!」 どうやら母親とはぐれてしまったみたいだ。 救護者も時間と共に増えてきてるし、迷子になっちゃったのかな。 「お母さん、どこかに行っちゃった?ここには一緒に来たのかな?」 「違うよぉ!ママがおうちの中にいたのに……僕だけ連れてかれちゃったんだもん!」 「……ッ!」 どくん、と心臓が大きく鳴った。 不意につきつけられた言葉が、全く予想していないところに大きく響く。 「ママ」と必死に泣きじゃくる子供の姿が、私の頭を揺さぶる。 これも、試験の一環だ。 実際の現場では、混乱の中で離れ離れになってしまう親子も沢山いるだろう。 救出状況によっては、先に子供を避難させることも間違いじゃない。 分かっている、分かっているけれど。 「ママを助けてよ、ヒーロー!」 その叫びが耳に届いた一瞬、子供の姿が大きくぶれた。 眼前の光景が、真っ暗闇に塗りつぶされる。 その中で、ぽつんと浮かび上がる小さな体。 これは、私だ。 目の前で、一人ぼっちの小さな私が泣きじゃくっている。 耳の奥がキンと鳴って、視覚情報が失われた。 現実が届かなくなった脳が形作る、記憶のフラッシュバック。 "お母さんを助けてよ、ヒーロー!" 頭蓋の奥で反響する、幼い私の叫び声。 沢山のフラッシュ、テレビに映るヒーロー、浴びせられた同情の言葉。 可哀想、辛そう、弱いばかりに。 違う、そんなものを望んでなんていない。 お母さんは、私は、弱くなんてない! 「……」 「……おい、被災者の不安を拭い取るのもヒーローの役目だぞ!」 固まってしまった私に、演技を止めたHUCの冷たい声が届いた。 その地声で我に返る。 「あ……だ、い、じょうぶ」 動揺してしまった。 でもこれは訓練だ、分かってる。 この子の母親は助けられる。 この子は私とは違うのだから。 何より私は、あの時のヒーローとは違うのだから。 頬を叩いて気を取り直す。 考えろ、子供の不安をどうすれば拭ってあげられる? お母さんと合流させること、これが一番だけれど、この子の母親がどこにいるのかは分からない。 この子から聞き出して現場に行く頃には、他のヒーローが救出しているだろう。 なら、今はこの場から離れずに、傍にいてあげることが大事だ。 「大丈夫、絶対ママも助けるよ。ヒーローだから、大丈夫!」 だから、そう言って手を握った。 お母さんが、こうやっていたのを覚えている。 子供の小さな手は、私の手ですっぽりと包み込んでしまえる。 その体温を感じながら、そっと目を閉じた。 大丈夫、大丈夫。 不安も何もかも、全て包み込んであげよう。 お母さんのように。私にだって、きっとできる。 「……」 どれくらいそうしていたのか、案外短い間だったのかもしれない。 喉を引き攣らせていた声が止んだので顔を上げると、子供はぽかんとした顔をしていた。 えっと、その表情はどういうことだろう。 「……まあ、悪手ではないな」 再び地声でそういったHUCは、泣きじゃくるのをやめて腰を下ろした。 これはクリアということなのかな? すました顔で座るHUCを見ていると、演技と評価の時のギャップに脱力する。 とりあえず解決したのなら、次の行動だ。 被災者達はみんな適切な応急処置を受けているけれど、その目にはまだ不安の色が大きい。 この場所は屋根もないので、被災現場がありありと目に映る。 現場の状況は悪く、これを見せつけられると余計に不安は募るだろう。 だから、少しだけ"個性"を使った。 ポーチからボール型の装置を取り出して地面に置いた。 透明な薄緑色の映像を送って、幕を被せるようにほんの少しだけ視界をけぶらせる。 卓上の知識でしかないけれど、緑色は心を安らげる効果があるっていうし。 避難した人達は不思議がっているようだけど、不安の色は薄まったみたいだ。 あと私が出来ることは―― BOOOM!! 「!!!」 爆音。 すぐそばの壁が爆発したかと思えば、続いて各地から鳴り響く爆発音。 被災現場各地で爆発が発生した。 「な――」 「皆さん!演習のシナリオ――」 轟音の最中緑谷くんが叫んだ。 もうもうと立ち込める煙の中、複数の人影が動いているのが見える。 演習のシナリオは、ヴィランに襲われた被災現場での救助。 その現場に壁を破壊してやってきたってことは、ヴィラン役!? 土煙が引いて、その姿があらわになる。 皆一様の格好をした複数の人物。いかにも手下というデザインのスーツだ。 けれどその中心に立つ人だけ異なる外見をしていた。 ごつごつしたチョッキと、首元のネクタイ、素地の厚いパンツに、ピカピカの靴。 何より目を引くのがその頭、シャチ。 ヒーローランクNo.10のギャングオルカ!! 『ヴィランが姿を現し追撃を開始!現場のヒーロー候補生はヴィランを制圧しつつ、救助を続行してください』 アナウンスと共に駆け出すスーツのヴィラン達。 現役ヒーローがヴィラン役ってそんなのアリなの!? いや驚いている場合じゃない、これも演習のシナリオだ! 「皆を避難させろ、奥へ!ヴィランからできるだけ距離をおけ!」 救護所から真っ先に飛び出したのは、試験前に挨拶を交わした高校の受験生、真堂さんだった。 "個性"でヴィランの足元の地面がひび割れる。 でも…… 「プロヒーロー相手に一人じゃ……!」 そう言った時には既にギャングオルカが真堂さんとの距離を詰めていた。 たった数秒の出来事。 放たれた超音波が真堂さんを直撃した時、とっさに地面に置いたボール型装置を蹴飛ばした。 弧を描いたボールはヴィラン集団の手前に転がる。 「……!」 すかさず"個性"を発動させて、ボールの周囲の人間の視界を砂嵐に変えた。 近くにいる真堂さんも巻き込んでしまうけど、麻痺して動けないので大目に見て欲しい。 ヴィラン役達が動きを鈍らせているし、効果はあるみたいだ。 これで少しは足止めできるだろうか。 ギャングオルカと対面すれば私の"個性"では敵わない、要救護者の避難を急いで―― 「小細工程度では止められん」 ――近っ!? 振り返った時にはすでにギャングオルカが目の前にいた。 避ける間もなく放たれた超音波が、あえなく私の全身を震わせる。 「……!!」 脳がシェイクされる。 全身の感覚がぐちゃぐちゃにかき乱され、気付けば地面に倒れていた。 シャチだから、目が見えなくても超音波で距離を測れるってか…… 首一つ動かせない私の視界に映るのは、ギャングオルカの足元と、復活したヴィラン達。 超音波のせいで、映像の送信が途切れてしまった。 くそ……体が動かなくてもまだ足止めはできる! ガガガガ!! 「!?」 もう一度"個性"を発動しようとしたとき、顔面スレスレを氷塊が通った。 これは……轟くんの"個性"!? 体が動かないので確認出来ないけれど、後ろの方からA組達の声が届く。 「緑谷、避難か!?手伝う!」 「皆、どこにいたの!?」 「轟はやっ、てかあれ綾目さん!?」 芦戸さんのびっくりした声で、状況はおおむね把握できた。 轟くんなら、一次試験の時みたいにヴィランの足止めも得意だろう。 私のしたことあんまり意味なかったな……としょげる私の頭上から、大きな声が届く。 「ふぅきィ飛べえええっっ!!」 同時に突風が襲いかかった。 いや、私にダメージはない。 少し浮いた体がヴィラン達から離れたところに着地する。 その最中、ヴィラン役のスーツの人達が突風に煽られているのが見えた。 風……これは夜嵐くんの"個性"か。 場所によって使い分けるとは、意外にも繊細な技だ。 「ヴィラン乱入とか!!中々熱い展開にしてくれるじゃないっスか!!」 声のする方を向こうとしても、筋肉は痙攣するばかり。 やってきた二人……轟くんと夜嵐くんは、どちらも制圧力の高い"個性"の持ち主だ。 轟くんなら、いつもみたいに助けてくれるだろう。 ヒーロー殺しからも守ってくれた男の子だ、プロヒーローにだって引けを取らないに違いない。 それに比べて私は、この場での活躍の機会はもうない。 このままだと試験に落ちてしまうかもしれない。 私は、ヒーローになれない……? 感覚が麻痺しているはずなのに、背筋を冷たいものが駆け抜けた。 いやだ、落ちたくない。 ヒーローを諦めたくない。 まだ終わりたくない! 歯を食いしばって力む。 朧気な感覚では、どこが地面に触れているのかもあいまいで、けれど比較的クリアな視覚が頭が持ち上がったことを教えてくれた。 首、肩、腕を意識して力を込めると、徐々に視界が高くなる。 なんとか上半身だけでも起こそうとしたその時、頭上を熱が掠めた。 「!?」 肌を焼くような熱さは、間違いなく轟くんの"個性"の炎だ。 夜嵐くんのお陰でヴィランからはある程度離れたはずなのに、何故? 「何で炎だ!!熱で風が浮くんだよ!!」 「さっき氷結を防がれたからだ。おまえが合わせてきたんじゃねえのか?俺の炎だって風で飛ばされた」 夜嵐くんの大声と、轟くんの低い声が聞こえる。 どうやら二人の"個性"がぶつかって、互いの進行方向を逸らしてしまったらしい。 ……というのは分かったけど。 「あんたが手柄を渡さないよう合わせたんだ!」 「は?誰がそんな事するかよ」 「するね!」 鼓膜を震わす二人の応酬は、どう聞いても喧嘩だった。 にわかには信じ難い。 轟くんと夜嵐くんが、ヴィランを目の前にして喧嘩してる。 「だってあんたはあの――エンデヴァーの息子だ!」 「さっき……から……何なんだよ、おまえ」 轟くんの声が明らかに苛立っている。 「親父は関係ね、えっ」 ヴィランの放ったセメントガンに当たってしまった。 轟くん、ヴィランから注意が削がれている。 「関係あるんだなこれが!」 夜嵐くんが轟くんに言い放ったのは、エンデヴァーさんと轟くんが同じ目をしているということだった。 夜嵐くんの言葉は轟くんにとって禁句だ。 例えばオールマイトに比べると、ヒーローエンデヴァーのことを好きではない人が多いのは知っている。 そして夜嵐くんもその一人。 体育祭以前の轟くんの冷たい目を知っている。 そして夜嵐くんも、受験の時にその目を見た。 轟くんにとって、エンデヴァーさんの話題は難しいところだ。 それをよりにもよって同じとか息子とか言われてしまえば、大変苛立ってしまうだろう。 ――でも。 それが、どうした。 「こ、の……」 喉が震えた。 「バッカモノー!!!」 「「!?」」 大声と同時に思わず使った"個性"は、ボール型装置を通して周囲の人達の視界に幻を映りこませた。 エンデヴァーの、ドアップを。 私にとって一番怒り顔をイメージしやすかったのがエンデヴァーだったからだと思う。もうそこは勘弁してほしい。 装置を通しての幻覚にしては存外クリアに映ったらしく、轟くんの顔が明らかに驚いているのが見えた。 むしろ驚きを通り越して「は?」という顔になっている気もする。 ともかく口論が止まったところで声を張り上げる。 「喧嘩してる場合か、この、バカモノぅ!!」 今は仮免試験の真っ最中だ。 好き嫌いを気にしている場合ではない。 ごくごく当然なことだから、声を張り上げて叱った。 「……ッ」 轟くんと夜嵐くんが顔を上げた。 轟くんの表情から険しさが息を潜め、その目が夜嵐くんを捉える。 ハッとして見開かれた瞳は、過去の出来事を映したらしい。 この高校に入学する前、轟くんに何があったのかは知り得ない。 けれど、そんなことはどうだっていい。 今この場で重要なのは、ヴィランを制することだ! 突然の幻覚に、ヴィラン役含めてその場の人達が一瞬動きを止めた。 ……いや、その中に飛び込む影一つ。 緑谷くんだった。 「綾目さん!真堂さんも!」 「緑谷くん!?」 二人の喧嘩に巻き込まれかねない場所で転がっていた私達を回収すると、すぐさま避難者の方へ駆け出す。 流石にギャングオルカは幻覚にも対応していたようだけれど。 「体が動かずともこの程度の"個性"は繰れるか。……だが」 関心したように言葉を紡いだギャングオルカ。 しかし容赦はない。流れるように体勢を変えると、夜嵐くんに超音波を放つ。 避けようとした瞬間、思い出したようにヴィランの一人が夜嵐くんに銃を向けた。 そこから放たれたセメントが、夜嵐くんに直撃。 「ガァ!!」 動きの鈍った夜嵐くんは、避けきれずに超音波の餌食となった。 墜落する夜嵐くんを見向きもせず、ギャングオルカの腕が轟くんへ伸びた。 「自業自得だ」 近距離での超音波。 まともに喰らった轟くんが、声もなく脱力する。 「シャチョーがキンキンしてる間に避難の方グッチャにすんべ」 「よーし」 ヴィランスーツの面々が、避難集団の方へ流れ出す。 「やばい突破されてるこっち来る!」 避難集団側の受験生がどよめいた。 振り返った緑谷くんが、私と真堂さんを降ろして迎えようとする。 「止め……」 「どいてろ」 しかし、それまで脱力していた真堂さんが地面に手を付けたかと思うと、ヴィランの足元が大きな地割れを起こした。 ギャングオルカの超音波で動けないのかと思いきや、真堂さんの"個性"的に耐性があるらしい。 「そんな感じで騙し討ち狙ってたんだよね!それをあの一年達がよォー!」 その中には私も含まれているのだろうか。 自分の計画が狂って声を荒げる真堂さん、挨拶した時はこんなキャラじゃなかった気がする。 「足は止めたぞ、奴らを行動不能にしろ!手分けして残りの傷病者を避難させるんだ!」 その声を受けて、緑谷くんがヴィランへつっこんでいく。 私は振動に耐性があるわけでもなく、未だに立ち上がることもままならない。 なんとか頭を持ち上げたけれど、ここからではボール型装置がどこにいったかも分からない。 そうこうしている間にも、ヴィラン達の向こうで大ボスが動いた。 ギャングオルカがこちらに向くと、拘束を解かれた轟くんがふらりと倒れる。 そのまま地面に横たわる――と思いきや、轟くんの右半身が火を噴いた。 燃えたぎる炎がギャングオルカの足止めを……いや、それだけじゃない。 夜嵐くんの風が轟くんの炎をすくい取り、吹き上げている。 二人の"個性"が合体して、巨大な炎の檻となった。 距離を置いても届く熱風が、その凄まじさを物語る。 「おい後ろ!後ろ見ろ!」 それに気付いたヴィラン達が、ギャングオルカへの加勢と避難集団への襲撃に割れた。 腕に装備した銃からセメント弾を放つと、轟くんは氷を同時に発動して防ぐ。 残ったヴィランを緑谷くんが相手している間に、避難を終えて手の空いた受験生が集まってきた。 戦力が足りてくると、ヴィラン達は押され気味になる。 流れはこちらにある。このまま押し切れるかもしれない。 ……いや。 「あとは怪我人の安全確保……!」 「こいつらの排除だ!」 「ゾロゾロと……!」 盛り上がる戦場。 戦線がこちらへずれてきて、動けない真堂さん共々受験生に回収される。 「待ってください。まだ……」 「超音波喰らってんだから無理するな、下がれ!」 私を支える受験生が、怪我人達が避難した方へ足を向けた。 運ばれながら、今の状況を考える。 ヴィラン達は多くの受験生が制しているし、救助にも人員は裂かれている。 けれど、まだ一つだけ弱い部分がある。 ヴィラン達の親玉……すなわちギャングオルカの対処だ。 轟くんも夜嵐くんもまともに動けない今、あの檻を破られれば突破される。 距離的に、ヴィラン達を相手している受験生から誰かが向かうべきだ。 ……それに気付いているのはもう一人。 炎の檻を見詰める後ろ姿に呼びかける。 「緑谷くん!」 振り返った緑谷くんの表情を見て、私と同じことを考えていると確信した。 「私が隙を作る……!」 「……うん!」 交わした言葉は短く、緑谷くんは一直線に炎の檻へ走り去った。 2018.09.24
DADA