立入禁止


触らないで、と彼女は言った。氷のように冷たい声だった。聞き慣れたはずのそれは、なんだかいつもより震えていたような気がして、俺は伸ばした手を止めたものの引っ込めることができずに、その華奢な背中をただじっと見つめた。
「どうしてですか」
愚問だ。けれどそう聞かずにはいられなかった。どうしてそう独りになろうとするのか。あなたは独りじゃないのに。何度も繰り返した言葉が彼女に伝わることはいつもなくて、ただ寂しそうな冷めた瞳が見返すだけだった。それを暖めることができたなら。この手に抱きとめることができたなら。あなたは少しでも幸せになってくれるだろうか。
「…弱い自分を、見たくないの」
弱々しく震えた華奢な背中に、俺は堪らず触れた。涙が伝う頬を拭った。この人を独りにさせてなるものかと、見えない何かに固く誓って。
(踏み込んでもいいですか)