排水溝


飲み込まれる。多分もう二度と、戻れなくなるところまで。
「どうした、陽世」
まるで悪魔のような囁きが、俺のすぐ耳元でこだまする。それだけで俺の体は身動きがとれなくなる。その声にしか反応しない壊れた玩具のように。
右手に握りしめた凶器がまるで振りかざすのを我慢できないかのように震えている。目の前で恐怖の色を滲ませる哀れな反逆者の瞳が、俺を捉えて離さない。
「俺の役に立ちたいのだろう?」
ならば、できるな、と。
右手にひんやりと、奇しくも人間とは思えない冷たい掌が覆ってやんわりと握ってきた。甘美とさえ思える声音と、背後に密着する愛しい方の体温。これを抱き締めたいが為だけに、俺はこんなにも残酷で無慈悲な行為をいとも簡単にやってのけてしまう。振り下ろした凶器は、あっという間に目の前の命を一瞬で奪ってしまった。その代わりに、
「ああ、お前は本当に良い子だ。
好いているぞ、陽世」
今日も俺は、愛しいあなたの体温を手に入れる。