一面に星がまたたいていた。 あまりの美しさに私は、息を吸うのも忘れてしまう。

 冬が始まりかけた、木枯らしが吹き始まるこの頃。 萌子は一つのパンフレットを持ちながら恋人に声をかける。

 「真島さん」
 「なんや萌子」

 笑顔を隠せないまま萌子は言う。
 
 「星を、見に行きたいんです…」
 「なんやと?」
 「観光のパンフレットなんですけど、ここにいくとめっちゃきれいな星、見られるんですよ」
 「ほんまか。そこに行きたいんか?」
 「はい!真島さんと一緒に…行きたいです。車はわたし回しますから」



 会合を終え、家に帰宅するといつもよりご機嫌な萌子がいた。
 機嫌のよさそうな萌子は見ていて好ましい。しかし今日は何故そうなっているのか、興味を持った。その理由を聞こうとする前に「真島さん」声をかけられる。そこから話をするときの萌子の嬉しそうなこと。
 提示された場所はそんなに遠くはないにしろ東京都の外、しかもちょっとした山中で、正直面倒くさい気持ちがあったが、萌子の嬉しそうな声を聞いていたらそんなのもどうでもよくなってしまう。

 「ええで、でも車は俺が運転させてくれや」



 目的地についたのは22:00。助手席で寝ないようにと頑張っている萌子が可愛かった。あたりは山の中というのもあり、肌寒い。厚着するよう周知しておいて正解だった。

 「うわっさむーい」
 「さっむいなあ、ほんま寒いで、」

 辺りの空気はそれでも澄んでいて、萌子は思わず深呼吸をしてしまう。

 「ほらー空気も美味しいですよぉ」
 「あんまり空気ばっか吸っとると喉痛なんで。寒いしのう」
 「いいんですよ、美味しいから」

 それから暫く星を見るために幾許かの移動をする。動きやすい格好をしていた萌子は、それでも夜間の林道をを前に時折バランスを崩す。

 「大丈夫か萌子」
 「…はい。…なんとか」
 「俺の手を捕まっとき」
 「…はい。ありがとう」

 そっから数度バランスを崩しそうになった先はまさに絶景といえた。東京では絶対に見ることができない星々がそこにはあって、海のようなさやけさが辺りを包む。萌子はそんな景色に吸い込まれそうになる。

 「綺麗…」

 誰も何も音を出さなかった。音を立ててはいけない、そんな気がした。

 そこから暫くして不意に萌子は手を引かれる。恋人の方に向き合うと、恋人もまた同じようにする。

 「今日はこんな我儘きいてくれて、ありがとう」
 「どういたしまして、やのぅ」
 「最初は正直面倒くさいと思ってたんやが、萌子の顔とこの景色みてたらどーでもようなったわ」
 「綺麗でしょ、空」
 「萌子のほうが綺麗やな」

 それから軽いキスをされた。
 萌子は顔色一つ変えずにやってのける恋人に恥ずかしさで顔が熱くなる。

「不意打ちは…ずるいです」
「キスしたく顔しとるのがあかん」

 したり顔で恋人は言う。

 「もう…」
 「また、こういう景色とか素敵な経験とか真島さんとしたいって思います。」
 「せやな、こういうのもたまには悪くないなぁ」

 それから少し話をして、そろそろ体も冷えてきた頃。

 「そろそろ寒なっとるやろ、帰るで」
 「まだいたいけど…、来年もまた来たいな」

 夢のような世界から一気に目が冷めた気分になる。
 そう言う萌子を恋人は静かに頭を撫でる。