「二極の森」の続きです


「お仕事頑張って」
「おう。おおきにな」

 ずっと一緒にいることは叶わない、そう思ってから暫く、これまで通り彼とお付き合いをしていた。週の半分くらいは、私の家にくるようになっていたし、私も彼の家に行くことも少なくなかった。ずっと一緒にいたい気持ちと、それは叶わないのだろうという諦念が私の心をゆっくり支配する。
 冬のある日のことだった。突然私の家に来た彼が言う。

 「暫く会えへんかもしれん。理由は…聞かんとってくれ」
 「会えなくなるのは…寂しいな。でも、わかったよ。また、会いに来て」

 わかった、といった彼は「すまん、用事がある」と私の家を去る。
多分、この話だけしにきたのだろう。忙しい中でもこういったことを対面で話してくれるところは私が彼を好きなところの一つだ。
 きっと、蒼天堀から出られない、隻眼、刺青、断片で聞いたそういったことが今回のことに関係あるのだろう、私はタイムリミットがそう長くはないことを知る。
 私のかわいいコンピュータが慰めるようにごうごうと音を立てている。
 それからどれくらいか分からないくらい、彼を待った。
途中、蒼天堀で爆発事故があったり、いつもより治安が数割悪かったりしたので彼の無事が心配だった。一回だけポケベルを入れたが返信はなかった。
 それから更にしばらくして、年が明けてから、彼は私の家にやってきた。
無事であることにまず安堵した。そしてテクノカットに、派手な柄のシャツ、その姿に少なからず私は驚いてしまう。

 「遅くなってすまんな」
 「…心配した。とても。でも無事でよかった。」

 今回の経緯を簡単に聞いた。やくざやさんの抗争に巻き込まれたということだけ。おそらく私の言えないこともたくさんあるのだろう。敢えて私はこれ以上追求しなかった。彼の話しぶりが少しいつもと違ったのが気になった。

 「そして、その格好は何?」
 「萌子」
 「俺は神室町に行くことにきめた、前にも話したが、俺は東城会っちゅー極道の組織におったんや。そこに戻る」

 タイムリミットが来てしまった。来てしまったのだ。

 「悪いな」
 「そっか…、いつかそうなるって思ってたよ、うん」

 声が震える。

 「お別れだね…私、あなたの信念に向かって真っ直ぐ生きているところが好きって前言ったけど、今も同じ気持ちだよ」
 「だから応援してる」
 「今までほんまにおおきにな」

 最後に彼は私に優しいキスを落とした。 私は泣きそうになるのを我慢しながら言う。

 「じゃあね、またどこかで会えたらいいね」