珍しく、早く仕事を終えることができた。
 普段は業務に業務を重ね、日付前に帰れたら良い方、日付を越えてタクシーで帰宅することもざらではない。
度重なる業務は緩やかに心身を侵食し、私は余裕をなくしてしまう。
 早く帰れるし何をしようか。突発だったので、恋人である真島さんとは会う予定を立てていなかった。
 ちょっと贅沢をしよう。 デパ地下で食材と惣菜を買い込み、ワインも調達。ちょっとしたパーティーだ。1人だけれど。 ついでにデパートの雑貨屋で狙ってた小物を購入。
 枯れていた心が少しずつ元の形を取り戻してきたような気がした。
 少しいい気分になりながら帰路に就く。家の前まで通ったときだった。

 「真島さん…?」
 「萌子、今日はえらい早いんやな?」

 真島さんがいた。確かに合鍵は渡しているから、来ること自体はおかしな話ではないのだけれど、滅多に私がいないところで部屋に入ることはなかった。少し驚いてしまった。

 真島さんとは神室町で悪い人に絡まれたのを助けてもらったのがきっかけだ。所属している立場がお互いに違いすぎる以外は極めて普通のお付き合いをさせてもらっている。少し怖いけど、見た目も性格も格好良くて、誰よりも私のことを考えてくれる。そんな真島さんは私の自慢の恋人だった。

 「今日はたまたま早く帰れたの。だから一人パーティーをしようと思って…」
少し大きめのデパ地下の袋を見せながら私は言う。
 「一人パーティーやなんてズルいなぁ。俺もよんでくれな…ヒヒッ」
 「会う予定じゃなかったから…でも、帰宅したら呼んでもいいかなって思っていたところよ」

 ――真島さんはどうしてここへ?

 「俺は最近帰りが遅い萌子をいたわろう思うてなぁ。ちょっとした飯でもつくろかおもたんや」
 
 真島さんもスーパーの袋を見せる。目立つその格好とスーパーの袋、ちぐはぐで少し面白い。
 私達のやりたかったことは目的の差はあれど同じだったようだ。思わぬ共通項に私は笑みが溢れる。こういうところ、好きだなあ。



 帰宅してから私達はパーティーの準備に取り掛かることにした。お惣菜をあたためて、料理を作る。ワインは冷やしておいた。

 「先、お風呂、入りなよ」
 「たまには一緒に入るのはどうや?」

 何言っているの?思うが渋々了承する。 真島さんとお風呂に入ることは初めてではないけれど、これがいつまでたっても慣れない。真島さんの鍛え上げられた肉体とそれを彩る刺青。これが本当に格好良くていつ見ても心が上擦ってしまう。

 「こっちきいや」

 湯船につかりながらそんなことを言われて私は真島さんと密着する形になる。
真島さんは私の身体をやんわり撫で回しながら耳元で囁く。

 「萌子の体はほんと気持ちええなぁ。ほんまに、気持ちええ」

 好きな人と密着する、身体を撫で回される、耳元で囁く。そんな状況に耐えられる人がいるだろうか。私は顔を赤くすることしかできず、されるままになってしまう。はぁはぁと喘ぎにもならない吐息が溢れる。

 「ここは風呂場やでぇ。そないな声だしたら我慢できなくなってまうわ」
 「我慢、して…今は。後で、ね?」
 「ヒヒッご褒美は最後やなぁ」

 風呂から出ると細やかな二人だけのパーティーが始まる。 乾杯の合図に、恋人への愛しさに、私の心は完全に修復される。