「クロードくん、おやすみ」
 「おう、萌子。おやすみ」

 闇も深くなってきた頃、クロードくんに寝る前の挨拶をしに私は彼の部屋を訪れる。
 彼は次期盟主で、私は地方貴族の娘。身分違いな恋だとはわかっていたけれど、私達は確かに想い合っていて、少なくともこの士官学校にいる間だけは私達のものでありたかった。
 だから、せめてこの間だけでも恋人らしいことをしたい…と思っているのだけど、前節からお付き合いしているのに、私達はまだキス、もできていなかった。
 クラスメイトもいるから外で、とかは難しいのは理解している。でも、おやすみの前、彼の部屋でくらいは…期待してしまう。

 今日も、なにもないかも… 「キスして」、一言そう伝えることができればいいのに。
 ひょっとしたらそんな思いが伝わってたのかもしれない。

 「また明日」
 「萌子」

 不意に名前を呼ばれて振り返ると彼は音もなく私の背後に立っていた。

 「く、クロードくん?」
 「なにか悩みでもあるのか?そんな顔をしている」

 あなたといつキスできるか…悩んでいるのですけど。

 「な、なんでもない」
 「本当か?俺といつキスできるか…気にしていたりして」

 本当にあなたという人は。 図星を刺されてばつが悪い思いをした私は、自分の部屋に帰るべく振り返ろうとする。
が、それは彼によって阻まれてしまう。

 「悪い悪い。図星だったか?もっと段階を踏んで…大事にしたいと思っていたからさ。」

 ――でも、萌子もしたいんだからいいよな。

 頬を撫でられたかとおもうと、キスをされた。唇が触れるだけの軽いやつ。 心臓の音が煩い。一方眼の前のクロードくんは涼しい顔していて、彼には敵わないんだろうな、と思ってしまう。

 「でも、そう思ってくれて、嬉しいよ。ずっとこうしたかったから」
 
 そう言いながら私を抱きしめるクロードくんに「そういうの、ずるい」と口だけいって、成すがままにされるしかないのだ。