日が傾きかけた私の居室、ソファの上に私たちは向かい合っていた。私は彼の腿にのって、私を乗せた本人と対峙している。
 
 「…桐生さんあの、」
 「…なんだ」
 「顔が…近いです」
 「…そうだな」
 見つめ合う、ただそれだけなのに、彼の端正な顔が至近距離にあって、それに見惚れた私は呼吸をするのを忘れそうになってしまう。
 彼は、言うならばやくざ、極道の人間で、きっと恐ろしいようなこともしているのだろう。たまに彼の衣類に血がついていることがある。けれど、今、こうして、二人で対峙してみると、その暴力性が微塵に感じられなくなる。どこかで置き去られているように。

 「萌子…かわいい」

 真っ赤な顔をしながら桐生さんは言った。きっと慣れていないのだろう、ぎこちなく紡がれるそれに、私は心に暖かさが宿る。
 私はゆるり彼の背を撫ぜる。彼は身動ぎをする。

 「桐生さん」
 「どうした」
 「私、桐生さんに甘えてる」
 「…そうだな」
 「もっと、甘えたい、と思うの。我儘だから」
 「もっと甘えても良いんだぞ」
 「そうなの?」

 私は彼の手をとった。少しごつごつとした男らしい手は私が彼の好きなところの1つだ。でも、この手で桐生さんは戦いを――
 彼の手、そこにある一本の指に私は舌を這わせた。

 「…っ」

 桐生さんの方を見ると声にならない声を発していた。そういう桐生さんを見るのは正直とても興奮する。きれいだ、と思う。

 「萌子…」
 「今、甘えてます」
 「咥えたまましゃべるんじゃねぇ」

 仕方なく唇から離すと彼の浅い息遣いが聞こえた。辺りは暗かった。知らないうちに夜が空気を吸っていた。

 「甘えてました。」

 あなたのその戦う手に私という存在を残したくて。戦う時でも側にいて欲しい…そういうエゴです。――私はそう言った。桐生さんは黙って私の頭をなでていた。私は彼に身を預けていた。

 「萌子は、」

 ややあって桐生さんが口を開く。私はその顔を見つめる。

 「萌子は、いつも俺と一緒だ。こうしているときも、戦っているときも。心にはいつもお前がいる」
 「私が…」
 「だから心配する必要はねぇよ」
 彼は微笑んで私にキスを落とした。優しいキスだった。
 「桐生さん…私、桐生さんのことが好きですよ。とても」
 「俺もだ」

 いつでも一緒だと、彼は言った。私もいつも桐生さんが心の側にいる。こんなに幸せなことがあるだろうか。私は幸せだ。あまりにも。この幸せがずっと続いて行くと良いと思った。
 


 ――ねえ、あの続きしてもいいですか?今度は私の欲、でしたいんです。
 フッ構わねぇがその後どうなるかは知らねぇ。