休日の昼間、クーラーの効いた部屋、ソファーに乱暴に座りながらスマートフォンを眺める。大好きなモデルの画像をSNS越しに眺める。彼女は人気店のアイスを食べていて、カラフルな色のアイスは空腹な私の食欲に響く。
 視線を男に向けた。床に寝転がりながら気持ちよさそうに寝ていた。普段の(私には見せないが)暴力性は鳴りを潜め、むしろ全ての欲を捨て去ったような顔は見ていて微笑ましい。
以前は悪夢にうなされることも多かったようなので、こういった様子は安心する。
 それからきっかり30分、私は彼に提案する。

 「起きて。起きてください、真島さん」
 「…なんや萌子、人が気持ちよー寝てたっちゅうのに」
 「結構寝てましたよ、夜眠れなくなりますよ」

 彼は起き抜けで少し機嫌が悪そうにしていて、目つきが悪くてちょっと怖い。けれども、そういうところがいつもより格好良く見える。本人には言わないけど。

 「アイス、食べに行きたいです、これ見て下さい」
 「なんやと?ふーん、よーさんカラフルなアイスが乗っ取るなあ、こんなん食べたいんか」
 「これ見てたら真島さんとアイス食べたくなったんです。もちろんこれが食べたいわけではないけど」

 外では陽炎が揺らめく。汗がつうと伝うのを服越しに感じる。
 結局私が説得して家の近所のアイス屋さんに向かうことにした。近頃流行りのカラフルなアイスを置いてあるようなものではなく、古風な、駄菓子屋がアイスをやっているといったような場所で趣がある。

 「バニラアイス2つください」

 この店の店主らしい老婆に注文すると彼は怪訝な顔をした。

 「俺はバニラ食べる言うた覚えないんやが」
 「どうせなら食べましょうよ、バニラ」
 「しゃあないな」

 程なくアイスが渡されて、私は代金を支払おうとする。
 「ええわ。俺が払ったる」

 今度は私が頭に疑問符を並べる。

 「え、ありがとうございます、でも借りとかそういうのは無しですからね」
 「ヒヒッそないに警戒せんでもええやん、これは俺からのご褒美や。」
 「今週、いろいろ頑張ったんやろ」

 ご褒美、彼は確かにそういった。 確かに仕事で今週大きめのプレゼンがあって、そのために幾日か徹夜したのだった。彼はそれを覚えてくれていた。

 「ありがとう…ございます」
 「ホンマは飯でもと思うてたんやけどな、昨日帰ってきてすぐ寝とったからな」
 「すみません、疲れの開放感で身体が」
 「ええで、埋め合わせは今度な 」

 彼は少し笑って踵を返す、私もそれに続く。
 アイスはむせ返る程の熱に溶け始め、早く食べよと私を誘う。帰りがてら、頂いてみるといつものバニラアイス以上の甘さを幾許か感じた。

「結構美味いな」
「とっても甘くて美味しいです。とても」

 私は笑顔でそう答える。 心の暖かさ。甘さの理由を私は知っている。