12月25日
珍しく雪が降って、所謂ホワイトクリスマスと世間は賑わいでいる。 これは私も例外ではなく、恋人にささやかながら贈り物を用意していた。
『18:00公園前広場で待ち合わせな、雪降っとったら近くで雨宿りしとき』
そうメールが来たのが12:00。職場を出たのが17:30。目的地に着いたのが17:45。雪は降ったり止んだりしている。
18:00。彼が来る気配はない。彼は時間を守る人だから仕事なのかもしれない。浮かれた学生達が、楽しげに街を歩いていた。彼らはそろそろ冬休みなのだろう。
19:00。 『お仕事中ですか?お待ちしてます』メールを送る。返事は無かった。
20:00。 雪が強くなってきた。近くのカフェにお世話になる。忘年会シーズン。社会人が酔っぱらっているようで、景気良く転んでいるのを見た。
21:00。 カフェは閉店とのことで外へでる。雪がかなり降っているので屋根があるところで一人、立つ。返信はまだない。
ここまで来ないとは思っていなかった。彼の仕事が仕事だから、最悪の場合殺されているかもしれないと思うと不安だ。
彼の周りの人、冴島さんや西田さん、お会いしたことはあるけれど、連絡先など知っているはずがなかった。彼の無事が知りたい。それでも一抹の期待を寄せて待つ。暖かかった飲み物の缶は体温を奪っていった。
22:00。街が少しずつ静かになってくる。そろそろ帰ろうか。不安に駆られたまま帰る前に一報と携帯を確認すると一件のメールが届いていた。「悪い、今から行くわ」メールが届いていたのは15分前、するとそろそろ来るかもしれない。
無事ということに、彼に会えるということに胸が高鳴る。
「こないに冷たなって」
革の手袋越しに私の頬に触れる男がいた。
「待たしたな。ごめんな萌子」
「真島さん、ご無事で何よりです。とても心配しました」
「ごめんな、ホンマに。仕事が長引いてしもうた」
「真島さんの仕事は危険なものもあると思うから…本当に心配して…」
彼はありがとうな、嬉しいでと笑顔を見せて、私の額に軽いキスをした。
「ほなどないしようか。食事と思ったけどこの時間やもんな」
「バーに行きたいです。この間真島さんが行きつけだっていってた」
「酒か。ええのう。そこにしよか」
ネオンで「OPEN」と書かれた扉を開ける。 私はジン・トニックを呷る。「ジン・トニックが美味いバーは上質なバーである」と昔誰かから聞いた。ここも例外なく美味しいものだった。
店の内装も古さはあるものの清潔でシックな装いをしていた。彼が好むのもわかった。 バーには私達だけのようだった。
「ホンマにごめんな。冷たなるまで待たせてしもうて」
「いいんです。流石にもうちょっとしたら帰ろうかなって思ったんですけど」
「帰っても良かったんやで」
「待った人に失礼ですよ、その言い方」
「ホンマやな。待ってくれてありがとう」
申し訳なさそうにする彼はすこし珍しかった。彼をなだめるのに少し時間がかかった。
「クリスマスに雪だなんてロマンチックですね」
「珍しいなあ。寒いのは嫌やけど、たまにはこういうのも悪ないな。ヒヒッ」
あの…とプレゼントの包みを渡す。あまりこういうことは慣れていないから、少し緊張する。
「大したものじゃないんですけれど、クリスマスプレゼント…を持ってきたんです」
「ホンマか!俺も持ってきたで」
「開けて、いいですか?」
「ええで、開けり」
彼がくれた包みを開けるとピンクゴールドのネックレスが入っていた。ペンダントトップは同じ素材で小さなハート型をしていた。可愛さもあるが上品さもあり、私が好きなデザインだった。
「気に入るとええけどな」
「嬉しい…ありがとうございます、ずっと大切にします」
「ええ顔しとるな…気に入ってもろて良かったわ。ヒヒッ、なあ、こっちも開けてええか?」
いいですよ、というと彼は嬉しそうに包みを開ける。
「香水か」
「気にいるといいんですけど、真島さんのイメージを崩さないものを考えました」
「丁度次の何しよ思うてたんや。ホンマ、ありがとうな」
それから私達はアルコールを嗜みながら会話を楽しんだ。 私達しかいないバーでささやかなプレゼント交換、私は今とても幸せだと感じている。 でも、そんな時間もつかの間だった
「そろそろ閉店の時間やな」
「そうですね。行きましょう」
24:00。店を後にすると雪は小ぶりになっていた。人通りもほとんど少ない。
「私。プレゼント、とてもうれしかったです。でも、私はあなたのそばにいることができればそれが一番幸せですよ」
「俺もや。俺もそう思っとる。萌子さえおればええ」
それを聴いて私は幸せな気持ちになる。 少しだけ沈黙が流れる。
「わがままを言ってもいいですか?」
「なんや言うてみ」
「今夜…帰りたくない。今日はそばに居たいんです」
「俺も同じこと言おうと思てたわ」
「今日は帰さんで」
耳元で囁かれる、加えて耳元にキスをされる。 私は、顔に熱が集まる。外は寒いはずなのに。 今日は離れたくないし、離したくもない。
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