「なあ、萌子。この後ちょっといい?ちょっとだけ部屋に来てくんない?」
同じクラスのクロードくんに誘われたのは授業を終えたほんの少し後のことだった。

本当は夕食の時間までに、明日の予習を簡単に済ませておきたかったのだけど、クロードくんは私の…好きな人だった。だから、誘われたことが嬉しくて、その誘いに乗ってしまったのだ。
今思えば同級生といえど異性の部屋に入るなんて軽率な行動だったと思うのだけど。

静かにクロードくんの部屋をノックする。

「入って」
「…お邪魔します」
「散らかってて悪いね、そこに座って」

お世辞にも片付けられているとはいえない部屋にある椅子に腰掛ける。物に当たらないようにしながら。

「それで、私に用って‥」

言いかけて、匂いに気付く。なんか甘ったるい、不思議な匂い。頭がぼうっとしてくる。
クロードくんが近づいてくる。

「これ…新種の毒なんだ」

へぇ…?どく…?毒…だなんて物騒なもののはずなのに、思考がまとまらない。私はクロードくんしか見えない。

「いわゆる惚れ薬ってやつ。すぐに切れるし、身体には影響ないから安心してくれ」

言いながら私は顔をなぞられる。クロードくんと目があう。いつも以上に胸がどきどきする。
クロードくんは耳元で囁く。

「どうしても、萌子を手に入れたくなった。毒が効いている今だけでも」

その言葉がどこまで本気か、今の私には判断がつかない。それでも、

「その、わたし…、毒とか、薬とか、なくてもクロードくんが好き」

霞がかかった頭の中で放った言葉に、策士と名高い級長の顔は豆鉄砲を食らう。