「桐生さん、わたし桐生さんのことが」私は目の前の人、わたしよりずっと背の高いその人にしがみつきながらこの想いを。
 桐生さんと少し飲んでからホテルに行くのが私たちのデートのおきまりだった。付き合ってないのだけれどね。今日もそうだった。そうして、いたのだけれど今日はわたしの気持ちの何かがおかしかった。わたしは桐生さんのことが好きで、ぶくぶくと膨らむその感情はいつからか制御ができないなにかになっていた。ホテルでそう、致した後、帰り際に想いか爆発して冒頭に至ったのだった。
 「好きです。」
 のどがからからだった。やっとの思いで発した言葉は確かに桐生さんの耳に止まったのか、少し身じろぎしたのがわかった。
 こんな関係から始まる恋愛は上手くいかないというのが一般論で、わたしとてそれは解っていた。解っていたけれど。
 「そうか。」桐生さんはゆっくり振り向くとわたしのことをまっすぐ見つめた。その視線にくらくらする。
 「そうか…お前はその気がないとおもってたが、どうやら杞憂だったらしい」
 杞憂ってどういうこと?頭に浮かぶ疑問符が脳内を漂う。すると、桐生さんはしがみついていた腕をやさしく解くと抱きしめられた。
 「俺だけかとおもってたぜ、俺もおまえのことが好きだ」
 夢かと思った。あまり感情を表に出す人じゃないから、判らなかった。でも、私と同じ気持ちだったと。
 「嬉しい…好き…」
 「もう離したくねぇ」
 ぶくぶくに肥大した想いは愛しさにかわった。わたしはめいいっぱい背伸びをする。彼は満足そうに笑いながら私にキスをする。