こうなることなど解っていた。解っていたのだ。私たちの心の距離は、長い時間、とても長い時間をかけてゆっくりと離れていった。些細なすれ違い、積み重なったそれは私の感覚をゆっくり溶かしていく。もうこれが愛なのか私には判らない。
「いくの」
 背を向けたあなた、どんな答が返ってくるかも解っているのに。
「ああ。今まで世話になったな。」
「こちらこそありがとう。」
 あなたの後ろ姿を眺めて私、少し笑ってみせる。せめて最後くらい笑顔でいたいから。嘲笑うようにいつからか降った雨が私の頬に張りついた。
 ああ、愛していた人よ。せめてこれから幸せに。私は祈りのような呪いをあなたにそっとかける。