まさかこうなるとは思っていなかった。
 彼は女性のことを本当は得意でないということを、彼の口から聞いたのはいつだったか。彼は、私のことを押し倒して、この手を縫い止めた。鼻が触れ合うほど、顔が近い。

 「あなたはそういうことが本当は好きではないと思ってた」
 「そうなはずなんだけど…、あの話をしてからなまえのことが気になってしかたがなくて。それで、こんななまえを見てたら止まらなくなって」

 私はどんな格好をしていたか。湯上がりでいつもは下ろしている髪を結い上げていた。普段着よりは幾許かゆるりとした部屋着を纏っていた。
 先生から言付かった落とし物をシルヴァンに届けようとしていたところだった。
 確かに無防備とも言える格好をしていた。けれどもいくらなんでも早急すぎはしないだろうか。

 「いい匂い」彼は私の首筋に鼻を埋めかいでみせると、あろうことか首筋に吸い付いた。

 「ちょ、待って…跡が」
 「大丈夫、なまえはいつも下ろしているでしょ、髪の毛。それくらいじゃ見えないよ」

 なにが大丈夫なのか。吸い付かれたところがじんじんとする。それが少しだけ、腰にずん、ときてしまっている私がいて、悟られぬようにそっぽを向いた。シルヴァンはそんな私を知ってか知らずか私の髪を耳に何度もかけて囁く。うっとりするような声で。

 「なまえ、かわいいよ」
 「そんな、こと、いわれても、わた、」
 「本当に、かわいい」

 彼に侵食されていくのが分かってしまった。シルヴァンは私の服を寛げると、湯上がりで少ししめった脇腹のあたりを、艶めかしく撫でていく。そんなふうに撫でられたら。

 「俺の心は前になまえに見せたけど、今度はなまえの全部見せて欲しい」

 そんなこと言われたら、私は。