「なまえ、ほら、煙草や」
「ん、ありがと」
何時からか、私はこの奇抜な格好の男と生活を共にするようになった。へんてこな髪型と服装、それに刺青。どう考えたって気質じゃない。けれどもこの男は、私にどうも甘い。
欲しいものがあればなんでも買ってみせたし、今のように口寂しいなという時は直ぐ煙草を寄越してみせる。つまりは何でもしてくれるのだ。尤も、私はそんなに欲しがりではないのであまり活かされることはないけれども。
「仕事、行ってくる」
「気つけや。帰る時になったら連絡しい」
「うん。わかった」
この男は毎日帰る時に連絡を寄越すように言う。毎日だ。煩わしいと思わなくもない。けれども、仕方がないとも思う。そういう人もいる、そう納得させるしかないのだ。
ああ。仕事に熱中していたら、帰る機会を逃してしまった。時計を見たらもう日付が変わるかどうかというところだった。これはまずい。携帯を眺めたら、もう連絡の嵐で。
「ごめん」
「なまえ、こ、こんな時間まで何しとったんや」
「ごめん、仕事してた。今から帰る」
「何やと?吾朗ちゃんが駅まで迎えにいったる」
電話の向こうで焦ったような声が聴こえる。これは面倒なことになったな、そう思った。こうなったらもう止まらないのだ。
最寄り駅に着くといつもの格好であの人が待っていた。いつもはもう少し格好良いのに、全く以てその面影はなかった。
「なまえ…」
ほぼほぼ泣きそうな顔で振り返る彼を見て苦笑いしかできない。
半ば連れ去られるように帰宅したら、まずは私を風呂に入れた。「肩まで浸かって10数えるんやで」その言葉に私は渋々従う。その次は温かい食事を食べさせた。彼が作ったのだろう、今日はあまり食事をする時間がなかったから、これはとても嬉しい。冷えた缶ビールというおまけつきだ。
「なまえから連絡来ないから心配したんや」
「ごめんね、心配かけたね」
「ほんまや。連れ去られたかと思ったで」
また大げさな。過保護だと思う。けれども、私のことを本当に心配しているのは知っているからなにも言い返すことができない。
どうしてあなたはこんなに良くしてくれるんだろう。こんなに惜しみない愛をくれるのだろう。食事を終えて、私は兼ねてから考えていた疑問を彼に投げる。
「ねえ」
「今日、迎えに来てくれて、こうやってしてくれて嬉しかった。でもなんで私にそんなに良くしてくれるの」
――だって、私あなたになにもしてあげられていない。
「なまえが好きだからや。これは見た目とか、そういうことを言っているんやない、なまえ自身のことをそう思っとる。俺にはなまえが必要なんや、」
そういうことらしい。答えになっているかどうかいまいち私には判断がつかないが、つまるところこの男には私が必要ということらしい。
「何それ。でも、嬉しいかな。私も吾朗さんにできること、してあげられたらって思うよ」
「じゃあ吾朗ちゃんの膝の上に乗って…」
「馬鹿。…今日は特別だよ」
過保護な人だけれど、こんなことを言われたらもう、全てを許したくなるし、一生ついていくしかなくなってしまうじゃない。
イケメン系女子の夢主に無自覚依存
パコ様リクありがとうございました!
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