迂闊だった。
冬のある日、私は傘も持たずに職場に赴いた。お昼休みに見た天気予報では夜は大雪だった。帰宅するときには降りしきる雪が。「駅まですぐだし」という今思えば下らない理由でそのまま帰宅することにしたのだった。
帰宅する頃には髪からコートから全て濡れて、仕方がないから湯船にゆっくり浸かり暖をとる。そんなくらいで冷えが取れるはずないのにね。
次の日、頭痛と風邪特有の怠さが私を支配する。熱を測ったら38度。とても職場にいける状態ではなかったから、職場に短くメールをして布団に潜る。今日、真島さんと会う予定だったんだけどなあ。
「風邪引いたから今日会えない。ごめんね」正午くらいに送ったメールは、直ぐに返信が返ってきた。「大丈夫か、何も食べとらんやろ、なまえの家にいくで」悪いなあと思ったけど、素直に甘えたいと思ってしまった。それくらいには弱っていたのだ。
そこから30分、1時間だったかもしれない、とにかくそれぐらいして鍵の開く音がした。買い物をしたと思われる袋を下げながら真島さんが入ってくる。
「なまえ!大丈夫か」
「うん…大丈夫…じゃない」
真島さんのひんやりした手が私の額に触れる。その温度が少し恋しいと思った。
「こんなに熱なって」
手を離した真島さんがてきぱきとした動作で袋の中を漁っているのが見えた。程なくして、スポーツ飲料とバニラアイスが出てきた。
「俺が美味しいもの作ったる。これ食べて待っとき。キッチン借りるで」
なるほど、これはたまらない。火照った体にアイスが気持ちいい。体が水分を欲している。ぼんやりした頭でアイスを食べながら、キッチンに立つ真島さんを見る。手際、いいな。料理している姿はそんなにみなかったけれど。
程なくして良い香りが鼻腔を擽って、そこからしばらくして「できたで」目の前に出されたのは卵粥だった。
「わ、美味しそう」
「風邪には卵粥って決まっとるんや」
ちょっと自慢げに語る真島さんがちょっとおもしろかった。「いただきます」、食べてみると存外美味しい。
「ん、美味しい」
「せやろ。熱いうちに全部食べり」
あっという間に食べ終えてしまった。自分でもびっくりする食欲だった。「お腹すいとったんか」真島さんは私の頭を撫でる。そういうスキンシップが今の私には優しかった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした、薬はこれか?」
私の薬箱から風邪薬を取ると私の前にだしてみせた。真島さんは私の家の勝手をよく知っている。
「そう、それ」
「しっかり飲み。そしてゆっくりするんや」
薬を飲み、横になることにした。直ぐ側に真島さんがいる。
「ねえ」
「今から寝るけどさ、真島さんの手、繋いでてもいい?」
「…ヒヒッええで。いつでも手、貸したるわ」
真島さんの手の感触がひどく私を安心させる。
ぼんやりとした頭で「真島さん」名前を呼ぶと振り向いて私の頭を撫でてくれた。
「今日は一日おったるから、いつでも頼るんやで」
「ほんとうに、ありがとうね」
「ええんや。なまえが風邪引いたって聞いて心配になったんや。これくらいさせてほしい」
そんなことを言えてしまうなんて。真島さんのことが愛おしく感じる。
「えへへ。うれしい。私、真島さんのことがすき」
「そんなん言われたら…がまんできなくなるやろ」
触れるだけのキスをした。「風邪やからここまでやな」いたずらっぽい目で私を見ると私を寝かせるようにゆっくり頭を撫で始めた。
ぼんやりする頭で考える。心細い中真島さんが来てくれて本当に嬉しかった。今日も一緒にいてくれる。そんなことをしてくれる素敵な人が恋人なのはとても幸せだな、って。
真島さんに看病(癒や)されたい
MIT様リクありがとうございました!
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