ウィークリーの手帳には大抵予定が埋まっている。大学の授業とか、そういう予定もあるけれど、大抵は男の誘いだ。食事だけの時もあるし、気分が乗れば、ホテルまで。大抵は一度きりで二度同じ男であるということはまず、ない。別にセックスしないと生きていけない性質ではないのだけれど、そういう駆け引きは楽しいと感じる。
 でも、金曜の夜、土日だけは特別だった。男の人と会うのは変わりないのだけれど、真島さん。おそらくヤクザの人かな、そんな男の人と共にある。ヤクザとだなんて危ない橋を渡っているのは自覚している。でも真島さん、彼はそれ以上に魅力的で目が離せない。
 
 金曜夜、「真島さん、こんばんは」私は彼の邸宅へ向かう。彼の家はとても広くて、彼のがどれくらいの地位の人なのか薄く理解してしまう。
 「なまえちゃん今日もかわいいわぁ。ほんまに」嘘か真かわからないその声は、値踏みされているようで、あまり気持ちが良いものではない。

 真島さんと共にすることといえば、外出、食事、就寝、たまのセックス…所謂「普通のカップル」がするであろうこと。別に私達は付き合っているわけではない。そういった話は一度もない。曖昧な関係をここずっと続けてしまっている。

 「寒かったやろ、風呂入るか」風呂に入る時は大抵一緒に入る。和柄の刺青が水滴できらめく様をみるのが好きで、つい凝視してしまう。
 「俺の体に惚れてもうたか?」彼は冗談ぽく私に訊く。
 「はい。素敵な刺青で、見惚れてしまいました」と答えてみせると、彼は満足そうな笑みを浮かべるのだった。

 「酒でも飲もか」入浴後そんな彼の提案に私は賛同する。
 「乾杯!」
 入浴後のビールは体に染み込むように美味しい。
ビールを飲みながら「この映画みたいんやけど」出されたDVDは所謂ホラー映画というもので、ちょっと苦手だったけれど、「みます」私は彼の提案を拒めない。

 映画は結論からいうとあまり怖いものではなかった。所謂B級映画というものか、ホラーのギミックが面白くて、真島さんと二人で笑った。

 「あの映画おもろかったなぁ。そろそろ寝るか。」
 私と真島さんは同じベッドで眠る。何時も通り布団に入ると急激に眠気がきて、私はそのまま眠ってしまった。
 
 「なまえ、お前は俺のモンや」

 寝しなに真島さんの声が聞こえた気がした。襲いかかる眠気のせいで何をいったのか分からなかったけれど。



こんな様子で変わりのない日常をずっと続けている。彼は何を考えているのだろう。底知れぬ怖さを唐突に感じるときがある。



「おはよう」

 その声は寝室の中で木霊する。隣をみると真島さんがいびきをかいて寝ていた。折角だし、朝ごはんを作ってあげよう、私は朝の支度を終えると勝手知ったるキッチンに向かう。

 キッチンから料理の匂いが漂い始めた頃、真島さんが姿を現す。「起こしてくれても良かったんやで」だってあまりに気持ち良さそうに眠っていたのだもの。このまま料理を完成させて、幸せな朝食をとなればいいと思っていた。思っていたのだけれど。

 「なまえ、携帯鳴っとんで」
 「!」

 真島さんが私の携帯に手をのばす。他の男からの連絡かもしれない。これはまずい。隠しているわけではないが、なんとなく憚られて、今までそういう話はしてこなかった。
 私も取ろうとしたが叶わず、携帯は真島さんの手の中にすっぽり収まった。仕方がない。親からの連絡かもしれない。素知らぬ顔で料理に集中しようと、していたのに、

 「この男だれや」
 
 ああ、だめだ。これはだめだ。

 「今度会う予定の人」
 「なんやと?」

 もともと隠すつもりもなかった、そう言い訳して、私の行動ルーチンを洗いざらい話した。週末は真島さんと過ごしているけれど、それ以外は適当な男性と会っていること。

こんな姿みたことない、と思うほどの厳しい表情をしていた。
 
 「でも、私たち付き合ってない。そういう話はしたことがない」
 「お前は誰のモンや」

 え、何、
 
 「お前は俺のモンなんや」

 ガシャン!物音ともに私の携帯は散る。

 「おぉ、すまん。新しいモン買うてやるから」

 心底申し訳なさそうにそう言うと、真島さんは私のことをやさしく抱きしめた。 真島さんのこんな姿、見たこと無い。

 「お前は俺のもんなんや…もう離さへん」



 あれから私はスケジュール帳のない生活をしている。必要がなくなったからだ。大学を除いて私は真島さんの家から1人で離れることはない。大学も「組」の人たちの送迎付きであるから、本当に1人でいることがなくなった。
 携帯も、そうだ。あの後買って貰った、真島さんしか連絡先のない携帯。他の人と連絡を取ることはしない、できない。

 「ただいま」
 「おかえりなまえ、今日もかわいいわぁ。ほんまに」

 私は戸惑いもあったけど、彼の真摯とも狂気とも捉えられる思いを受け入れようとしている。前から目を離せなかったほど魅力的であったのだから、当然の結末なのかもしれない。
 私はこの檻のなかで彼に飽きられるまで、或いは一生、こうして生きていくのだろう。彼の愛を受けられるならそれでも良いと思った。





愛が重すぎる真島さん(恋人ではない)

匿名様リクありがとうございました!