「お姉ちゃん、大丈夫か?」
これは一目惚れだった。見るからに奇抜な格好をした彼は、街で怪しい人に絡まれている時に助けて貰った人だ。私の窮地を華麗に救うその姿、見た目も、格好はちょっと変だけれど顔は整っていて、高すぎず低すぎないその声はなにより私の理想そのものだったのだ。
「なまえってば理想高いよねー」
そんなんだから彼氏できないのよ、なんて友達に言われることはあったけれど、理想は!いたのだ!私はそう思いながら目の前の男性に向き直る。
「えっと、助けてくれてありがとうございます。よければお名前を伺ってもよろしいですか?」
「なんや、ええで。真島吾朗っちゅーもんや」
「あ、ありがとうございます。私みょうじなまえっていいます。」
「なまえちゃんか。ええ名前やな。ほな、気をつけて帰るんやで」
ああ、名前を覚えてもらえた…!その嬉しさに心が震えそうになる。これで。お近付きになれるかも…あ、連絡先きいてない。
「真島さーん」
「げ、またなまえがおる」
それから私は真島さんに「猛」アタックをすることになる。
真島さんはよく街を徘徊していた。姿を見つけては話しかけた。ちょっと面倒くさそうにしていなくもないけれど、それでも彼は飽きることもなく話しかける私に応対してくれる。やっとのことで聞いたメールも。ちょっと返信は遅いけれど、必ず返してくれるのだ。
あるときにふと思い立って真島さんの好きなタイプを訊いてみた。これが、まさかあんなことになるなんて。
「真島さん、好きな人…のタイプとかってあるんですか?」
緊張のあまり目眩がした。
「おるで」
いる!いるんだ。彼に知られないように深呼吸すると追加の質問を投げかけてみる。
「あの、どんな人がタイプなんですか?」
彼は少し逡巡した後口を開く。
「そうやな…桐生ちゃんみたいなのがタイプやな…あんなに強い子おったらシビレてまうで」
桐生さんみたいな子がタイプ。ああ、頭の中でぐるぐるその言葉が駆け巡る。
「そうですか…そうですよね。わかりました…」
失礼します、そういってほぼ泣きそうになりながらその場を去る。
「冗談だったんやけどなぁ…」
そう真島さんが零していたことを私は知らない。
桐生さんは真島さんのお知り合いの方で、それはそれは素敵な方なのだ。真島さんのほうが格好いいけど!私にもとても優しくしてくれて、寡黙と思ったら少し天然なところもあって、そこにギャップを感じて…ああ、あんな女の子がいたら敵いっこないよ。
桐生さんに弟子入りしよう。そう思った私は桐生さんにメールする。
『こんばんは。なまえです。明日お時間ありますか?』
『なまえか。久しぶりだな。明日は時間あるぞ』
『ありがとうございます。ちょっとお話したいことがあって。では18時に前にお会いしたカフェで…』
仕事を終えて、約束の場所で桐生さんにお会いする。
「…とこんなことがありまして」
「そうか…」
事の顛末を話すと桐生さんは少し困ったように顔をしていた。
それでも、真島さんにふさわしい女になるために、諦めるわけにはいかない。
「桐生さんのところへ弟子入りさせてください!」
「…む。それは構わないが…」
「ありがとうございます!これからいろんなところへお供して、桐生さんの生き方過ごし方、参考にしたいです!」
そう頭を下げると私は自分のコーヒー代を支払い、その場を後にする。
「兄さんはなまえのことが好きだと思っていたんだがな…」
そう桐生さんが言っていたことを私は知らない。
帰り道、私はスキップしたい気持ちだった。真島さんにふさわしい女になるためにしばらくは、真島さんに会うのは、連絡するのはやめよう。ふさわしい女になってびっくりさせるのだ。
それから休日はほぼ桐生さんと共にいた。平日も仕事の後時間が合えば。きっと面倒臭い部分もあるだろうに、それでも一緒にいて色々なことを私に教えてくれる。
桐生さんはどこまでも「格好いい」人だった。それは惚れてもおかしくないくらいに。
芯の通った性格、どこか覚悟を感じる所作、何度か喧嘩する場にも遭遇したが、圧倒する強さだった。敵わなかった。こんな素敵な人にどうやったらなれるだろうか。きっと私の知りえないとても、とても色々な経験をしてきているだろう、というのは私にも理解できた。
そんな生活がずっと続いたある日、桐生さんと一緒にいたとき、私の携帯が突然鳴る。真島さんからのメールだった。真島さんとのやりとりは私からすることが殆どで、先ず彼から来ることはない。だから、心臓が跳ね上がる思いがした。あの真島さんから来るなんて。
「あ、真島さんからだ」
「なんて来たんだ?」
「『今何してるん』って。なんて返そうかな」
「兄さんに会っていないのか?」
「真島さんにふさわしい女になるまで、会わないって決めているんです」
「そうか…」
桐生さんはいつかしたようなやりとりをして、いつかしたような困った顔をした。
「『桐生さんといます』って返しちゃおうかな」
「待て、なまえ。それは良くない」
珍しく焦ったように桐生さんが制止する。え、なんで良くないんだろう。別にいいじゃないか。別に真島さんの彼女じゃないし、彼女になるにはハードル高そうだし。
でも、桐生さんの弟子である以上、師匠の言う通りにしなければ。そのまま、私はそのメールの返信を忘れてしまうのだった。
それがいけなかった。
頻繁に連絡がくるようになった。電話も、来るようになった。出てもよかった。でも「桐生ちゃんのような人が好み」その言葉に尻込みしてしまう。でも、無視するわけにもいかなくて、ついに「桐生さんと一緒にいます」私は、そう、そう返してしまったのだ。
「桐生さんは今日も素敵ですね」
今日も私は桐生さんと一緒にいた。ゲーセン行ったり、お茶したり…良い友人になってる…気がする?
そんな、そんなある日。
「なまえ!!」
聞き覚えのある男の声で振り返ると、真島さんが。
「真島さん!」
「なまえ!なんで、桐生ちゃんとおるんや。」
「ほらな…」桐生さんは頭を抱える。ほらな、ってこうなることが分かってたみたいに。
「なまえは俺のモンや、桐生ちゃん、いくら桐生ちゃんといえど、それは許されんでぇ」
こんな、こんな真島さん見たことなかった。ドスを抜きかねない勢いで、俺のモンって、いったいどういうこと。真島さんの剣幕に圧されそうになりながら私はやっとの思いで声を振り絞る。
「私、別に真島さんのものじゃないし…」
「なんやと?なまえは俺のモンや」
真島さんが私の腕を掴む。私は振りほどこうとするけれど、あまりの力の強さにそれは叶わない。
「だって真島さんは桐生さんみたいな人がいいのでしょう!?私、き、桐生さんに弟子入りしたくて、その、真島さんが桐生さんみたいな人がタイプっていうから」
「そういうことだ、兄さん」
殆ど泣きそうになりながら、私はそれでも真島さんに言い続ける。
「だから、桐生さんの傍にいて、少しでも桐生さんに近づけるように、真島さんが好きだから」
「なまえ…」
好きって言った。いっちゃった。
見上げるとバツの悪そうな顔をした真島さんがいた。私は何度も深呼吸をして、真島さんの言葉を待つ。もう振られてしまうかもしれない。それでももう、良いと思った。だってこんな見苦しいところを見せてしまったのだもの。
「なまえ。桐生ちゃんがタイプって言ったのは冗談だったんや」
「冗談ってなにそれ、じゃあ本当に好きなタイプは…」
誰なの、その言葉は言葉にならなかった。だって私、真島さんにキスされてる。抱きしめられながら。
「ん、何なの」
「俺はなまえのことが好きなんや。ありのままのなまえが。こんなに妬いてまうくらいに」
真島さんが私のことを好き。そんな夢のようなことがあるなんて。
「嘘」
「俺は嘘が嫌いや」
そうだった。あなたは嘘が嫌いだった。じゃあ、きっとこれは本当なんだ。
「よかったななまえ」
私たちのことを見ていた桐生さんが心底嬉しそうにそう言った。厄介払いができたとも思っているかもしれない。今まで色々付き合ってくれてありがとう桐生さん。
「すまなかった。なまえ。これからは一緒にいてくれ、時間を過ごさしてくれ」
「真島さん。私も真島さんが好きです。一緒にいたい。」
遠回りしたけれども、桐生さんみたいな女性にはなれなかったけれども、それでも真島さんは私を、ありのままの私を好いてくれた。これからも等身大の私で、私らしく、真島さんに接したい、生きていきたい。私は強くそう思うと真島さんの背中に腕を回した。
真島に一目惚れした夢主が猛アタックするが軽くあしらわれる。 真島が好きなタイプを「桐生ちゃんみたいな女(冗談)」といったので夢主は桐生に弟子入り。 夢主が自分に会いに来なった+桐生にべったりの夢主を見かけて真島がメンヘラ化、最後はハッピーエンド
ファルコ様リクありがとうございました!
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