外は綺麗な夕焼け、もうすっかり秋の空。

ヘッドホンをしながら、わたしはぼろぼろのお墓に向かって、お寺の墓地を歩いていました。

まだヘッドホンからは音楽は流れていません。聴くつもりの曲は、とある想い入れのある曲。

「赤木さん、お元気ですか」

わたしは目の前のお墓に向かって、少し照れくさいけれど。

「まだ赤木さんにはお聴かせしてなかったですよね。こんなすてきな曲があるんですよ。赤木さん音楽とかあんまり興味なさそうだから聴いたことないと思うんですけど、今から歌ってみますから、良かったら聴いていてくださいね」

そして、わたしはミュージックプレイヤーの再生ボタンを押しました。流れはじめる、聴き慣れた曲。この日のために、少しカラオケに行って練習しただなんて言えません。イントロをかけたら、ひとりでに歌詞が思い出されて。

わたしは歌いはじめました。目を閉じたり、お墓の周りの砂利の間から顔を出している雑草を抜いたりしながら。


むこうはどんな所なんだろうね?
無事に着いたら 便りでも欲しいよ

扉を開いて 彼方へと向かうあなたへ
この歌声と祈りが 届けばいいなぁ

雲ひとつないような 抜けるほど晴天の今日は
悲しいくらいに お別れ日和で

ありふれた人生を 紅く色付ける様な
たおやかな恋でした たおやかな恋でした
さよなら

またいつの日にか 出会えると信じられたら
これからの日々も 変わらずやり過ごせるね

扉が閉まれば このまま離ればなれだ
あなたの煙は 雲となり雨になるよ

ありふれた人生を 紅く色付ける様な
たおやかな恋でした たおやかな恋でした


「……さよなら」

そんなに長い曲ではないので、程なくわたしは歌い終わりました。閉じていた目を開けて、ふぅ、と一息つくと、

ぱちぱちぱち……

「おー。なんの歌だか知らねぇが、良い歌じゃねぇか」

「沙良さんって歌上手いんですね。伴奏は聴こえなかったけど、聴き惚れてしまいましたよ」

突然聞こえてきた拍手の音にわたしが驚いて後ろを振り返ると、そこには天さんとひろさんがいました。

「わ……天さんにひろさん。こんにちは、すみませんなんだか突然変なものを聴かせてしまって」

「いやいや、何言ってんの。すっごい上手かったよ」

わたしがとりあえず謝罪の言葉を述べると、天さんは笑いながらそれを否定しました。

「あ、ちょうどいいや。沙良、今夜家で一緒に飲まねぇか?」

「酒を買ったは良いものの、買いすぎてこのままじゃみんな二日酔いで明日ひどいことになっちゃうんですよね」

呆れたような声でひろさんが付け足します。

「どうだ?楽しく弔い酒ってことで」

わたしはにっこり笑って、お墓を歩いている時からずっと持っていたお花を、入りきらない花瓶の横に置きました。

「……じゃあ、お邪魔しちゃおうかな。ごちそうになります!」

明るく楽しげな声を響かせて、わたしたちは天さんの家へと向かいました。



最果て
「うし、決まり!飲むぞー今夜はー!」
「飲みすぎてべろんべろんになって俺にムダ絡みしないでくださいね……」
「うふふ、じゃあわたしも今夜は久しぶりにたくさん飲んじゃおうかな!」
「え、沙良さんもですか……俺、どうすればいいんだ……酔っ払いの付き合いは好きじゃないぞ……」
「ひろくんも飲んじゃえば良いんですよ!ね、天さん」
「そーだそーだ!」
きっとこんな光景を、赤木さんはいつものようにおかしそうに笑って見ているのでしょう。亡くなってからもう何年も経ったんだし、こうやって笑ってお墓参りをした方が赤木さんは喜びそうですね。


*
2015.09.26 赤木しげる追悼