※ひろゆき32です、名前変換ありません


知り合いの結婚式に呼ばれて俺がやってきたのは、少し足を伸ばした場所にあるチャペル。それほど規模は大きくないものの、庭の木や草花は綺麗に手入れされていて、良い印象を受けるチャペルであった。

チャペルの中に入り、着席する。席が埋まった頃に神父がやってきて、「新郎の入場です」とたどたどしい日本語で告げた。その言葉を皮切りにパイプオルガンが心地よい音量で賛美歌を奏ではじめる。ここのチャペルはBGMを流すのではなく、プレイヤーを雇って生演奏を提供しているようだ。チャペルの右側にいるパイプオルガンの女性のほかにも、チェロの男性、フルートの女性、左側には二人の女性がいた。

新郎である友人が入場してくる。大学時代仲良くしていたその友人は、純白のタキシードを纏い、もうすっかり立派な紳士になっていた。そして新婦が、父親と腕を組んで入ってくる。ゆっくりとしたウエディングステップで、神父の前で待つ新郎の元へと歩みを進める。そして組んでいた腕を、新郎の元へ――パイプオルガンの演奏と相まって、少し目頭が熱くなってしまった。俺も年を取ったな、と、そんなことを考える。

新郎新婦は神父の前に立つ。神父が様々な言葉を並べ、誓いの確認をして、キスをする。その後、チャペルからのプレゼントとして賛美歌が贈られた。左側の女性二人が起立する。どうやら聖歌隊の人であるらしい。二人のうち年上と思われる女性がメインの旋律を歌い、もう一人の――大学生くらいだろうか――若い女性がハモりを歌っていた。俺は若い女性に人知れず目が行っていたが、その由をまだ知らない。やがて賛美歌は荘厳に終了する。

「新郎新婦の退場です」神父が高らかに宣言した。パイプオルガンが曲を奏で始める。祝福の拍手が鳴り始め、聖歌隊の女性たちが手に持っていた楽譜をめくり、そして――俺は、彼女の歌声に魅了された。

そこで歌われたのは、タイム・トゥ・セイ・グッバイだった。綺麗に結われ清楚な印象のポニーテール、その華奢な体から奏でられる、まるで神の声と表現しても過言ではないようなソプラノ。このチャペルが音がきれいに響く設計をしているからなのかもしれないが、とにかくその姿に、俺は言いようもない衝撃を受けた。フラワーシャワーを浴びて幸せそうに微笑む新郎新婦に拍手を送りながら、俺は彼女のほうを時々見ずにはいられなかった。

新郎新婦が退場した後間もなく式は終了し、他の参列者は次々に席を立ち始める。そんな中で俺は、「お疲れさまでした」と他のスタッフを労いおわり、自分の片づけに入ろうとしている彼女に向かって、

「あの、」

そこからのことは、また別の話としようか。


Time to say goodbye
仕事ばかりの生活には、もうさよならだ。

20160622