しげるくんがわたしの家に時々泊まりにくるようになって、しばらくが経った。彼がわたしと同じ部屋で寝ている、という状況がふしぎでないと思う程度に。

わたしが仕事から帰ってくるのと同じくらい、または少し早いくらいに彼はわたしの家を訪れる。同じくらいのときはいいが、はじめはわたしが家に帰ってくると玄関に白髪の少年がいることに驚いたりもした。いまでは、これも日常の一部である。

彼は大抵わたしより先に眠る。わたしたちがご飯を食べおえて、洗い物をしたり、少しだけ残っている仕事を片づけたりしている間に、彼はいつの間にかお風呂も済ませてころんとわたしの毛布を借りて眠っているのだ。そう、今のように。

いつしか、夜更けに血まみれでわたしの家を訪ねてきたことがあった。とにかく驚いたわたしは、彼に何があったのか聞くのも忘れて、彼の手当てをしたわけだが、後になってそのことを聞いても「ちょっとごたごたがあってね」と言うだけだった。そのとき彼は、どこから手に入れたのか、拳銃を持っていた。そのことは鮮明に覚えている。

きっと彼は、危ない世界に手を出しているのだろう。そういうことはわかっている。だけど、それと同時に、彼には頼れる人が私以外にはいないのではないか、という感情も沸き起こってくるのだ。自意識過剰なのかもしれない。いつかわたしまで巻き込まれるのかもしれない。そういうこともわかっている。だけど、ごはんがおいしくできたとき、すてきなものを見つけたとき、わたしは彼のことを思い出す。彼と、おいしくできたごはんを一緒に食べたいし、すてきなものを共有したいと思うのだ。いつか危ない人に巻き込まれるかもしれなくても、彼とは時々ごはんを一緒に食べたい。そう思うのだ。

彼はわたしのなにで、わたしは彼のなんなのか。そう考えるときもたまにはある。だけど、付き合っているわけではないけれど。彼のあどけない、年相応の寝顔を見ると、かすかな寝息を聞くと、すごくあたたかい気持ちになるのだ。このままでいい、むしろ、このままがいい。

きっとわたしはこれから先も、この幸せを噛みしめるのだろう。いつ彼がわたしの元から去ってしまうのか、わからないから、余計なのだ。彼がこの家に帰ってくる限り、わたしは彼をあたたかく迎えてやるべきだと思う。

そろそろ、わたしも寝よう。押し入れから毛布をもう一枚取り出し、わたしは電気を消して自分のベッドにもぐりこんだ。