「ねぇ」
「そういえば、アンタ、どこ住んでるの」
いつも雀荘で顔を合わせるアカギさんが、急にそんなことを訊いてきました。
わたしはびっくり。どうしてそんなことを訊くの?ここは雀荘だよ?女をお持ち帰り、いや、わたしの家だから逆お持ち帰り?とかする場所ではまったくないよ。
「……す、すぐそこですけど、どうして、そんなこと訊くんですか」
きっと「泊まりたい」とか言い出すんだろうな、と思いながら、わたしはあわてふためいた口調を表に出しながら答えました。
「クク……いや、いつも帰ってたアパート、家賃払ってなくてさ。そしたら今日、ついに水まで止められちゃったんだよね。だから、泊めてくれない?」
「あなたならそんな金くらいすぐ払えるでしょうなんで払わないんですか!」
アカギさんとしてはわざとらしすぎる、ツッコミ所満載のそのことば。わたしはすぐにツッコミました。その様子を見てアカギさんはにやにやしながら、卓上のリー棒をそのきれいな指先で弄びます。
「俺が家にいる時には、なぜか大家がいないんだよなあ。タイミング悪いのかねえ、……だから、泊めてよ、沙良さん」
そしてアカギさんはこれまたきれいな瞳でわたしを見て、とっても珍しくわたしの名前を呼んでおねだりしてきました。こんなことされたらわたしは断りようがありません。勝てるわけがありません。あの人には、麻雀でも、ことばでも。
「……幸い一人暮らしなので良いですけど、でも」
わたしは悔しいので、ダメもとで条件をひとつつけてみました。
「手ぇ、出したら……ただじゃおきませんよ?」
そのことばにも、アカギさんはしばらく後ににやりと笑って返しました。
「……さぁ、どうだか」
やっぱり、アカギさんには勝てません。
橙