暦の上では九月になったが、まだまだ残暑が厳しい日のこと。

夕食も食べ終わり、リビングで読書をしていた涯に洗い物を終えた沙良が少しうきうきしながら話しかける。

「涯くん、わたし今日お仕事の先輩にぶどうもらったの!冷やしておいたから、一緒に食べない?」

そう言いながら冷蔵庫を開けて、沙良はパックに入った一房のぶどうを取り出す。

「じゃあ、いただきます」

涯は本をぱたりと閉じて、台所へ向かう。ぶどうを洗っている沙良のそばで食器棚からお皿を出し、沙良のそばに置いた。

「あ、お皿。ありがとう」

沙良はそう言って洗い終わったぶどうをお皿に置き、皮を入れるためのパックも持って涯とテーブルに向かった。

「涯くんはぶどう好き?」

「あんまり食べたことないからよく分からなかったんですけど、おいしいですね」

「でしょ!しかもこれ、すっぱくないし!甘くておいしい〜」

沙良の言う通り、貰い物のぶどうは大粒で、皮もむきやすくそれでいて甘かった。

「おいしいなー。こんなにおいしいのは久しぶりだよ」

そう言いながら沙良はまた一粒ぶどうを房からもぎ取り、つるりと皮をむきちゅるんと頬張る。そんな様子を涯は自分がぶどうを食べる手を止めてじっと見つめていた。

「ん?どうしたの、涯くん」

いつの間にか自分を見つめていた涯に気づくと、涯は無意識だったらしく、はっとして驚いた様子を見せる。

「あっ……いや」

とっさにうつむき目をそらす涯。

「えー、何?言わなきゃ分かんないよ」

涯の顔が耳までかぁっと赤くなる。そして、彼は消え入りそうな声で呟いた。

「……美味しそうに食べてる沙良さんが、可愛いから……っ」

それを聞いた沙良はたちまち赤面し、それをごまかすようにまたちゅるんとぶどうを一粒頬張った。


照れ隠しのぶどう
(ぶどうよりも君の方が食べたいなんてこと、今はまだ言えない)