すき焼き

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吉三 / 現代パロ / 転生ネタ / 女体化

※蟷螂後日談。同棲してます。

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「今帰った」
 今日もまたインターホンを押すこともなく帰宅した三成は、靴をカランと脱ぎ捨てにしたまま、ぱたぱたと一直線に吉継のもとへとやって来た。
「えらく早に帰りやったな、三成」
「今日は金曜日だから、早く帰れと半兵衛さまがおっしゃったのだ」
 憮然とした様子でそう言う三成には、そもそも曜日によって仕事に身が入るとか入らないとか言った考えが欠落しているのであろう。下手をすれば、土日まで仕事をしている三成を、上手くなだめて休ませるのは吉継の仕事だった。まぁ、座りやれ、と慣れた調子でソファーをたたけば、おとなしく隣へ腰をおろす。くたりと甘えるように肩に頭をもたせかけた三成の背を、ぽんぽん、と叩いてやれば、ますます甘えてすりよってきた。
「いくつになってもぬしの甘えたは治らぬなァ」
「嫌なら治す」
「イヤ、そんなところも愛しゅうてならぬわ」
 背を撫でていた手を頭に回す。パチン、と赤い蝶の髪留めを外してやれば、つるりとした触感が肌を滑った。指の間を通り、さらさらと落ちる白銀の髪が美しい。指とは言わず全身に包帯を巻いていたあの頃からも幾度も撫でた髪だというのに、こうして直に触れてみれば、何度触れてもまた触れたくなる。
 意識しなければ、夜が明けるまで撫でているだろう手を無理やり離して、吉継は三成をきちんと座りなおさせた。
「疲れておろう、先に風呂に入ってきやれ。われは夕食の支度をするに」
「貴様も共に入るか?」
 にやり、と三成がお世辞にも人の良いとは言えぬ笑みを浮かべて見下ろしてくるのに、吉継もまた、にやり、と返す。
「大層魅力的な申し出ではあるがな、ならば夕食はどうする?」
「一食ぐらい食べずとも問題ない」
「ヒヒッ、せっかく今日は良い肉が手に入ったというにな」
「……肉?」
 小首をかしげた三成に、半兵衛さまがぬしを心配してわざわざ送ってくだされたのよ、と返せば、とたんにばっ、とそれまでの甘い雰囲気が幻のような機敏な動作でソファーから立ち上がった。
「それを早く言えっ!」
 そうしてぱたぱたと浴室へとかけて行く三成を目だけで追いかけながら、吉継は小さく息をはいた。前世より、いくぶんかマシになったとはいえ、やはり秀吉・半兵衛の存在は三成の中で大きな位置を占めている。それでも三成は自分を選んでくれた、というのだから、不満を言うのは我が儘というものなのだろうが。
「……ぬしは、ほんに半兵衛さまが好きよなァ」
「貴様、そんなに私と風呂に入りたかったのか」
 独り言のつもりが返答が返ってきて、思わず吉継はびくりと体を震わせた。
 おそるおそる振り向けば、視線の先にはこちらをじっと見下ろしている三成の姿があった。
「風呂に入ったのではなかったか?」
「着替えを忘れた」
 はね上がる心臓を無理やり押さえて、なんでもないようにたずねれば、こちらの思惑などまるで気づかぬように三成が言う。本当に、風呂に入る直前に気づいたのだろう、体にバスタオルを巻いただけの姿で立つ姿からは、まるで羞恥というものがうかがえない。タオルを巻いているだけマシなのだろうが、おかしなところで堂々としているのは前世から変わらない。おかげで吉継がどれだけ苦労させられたか。
 ましてや今は女の身体である。背も高く肉も薄い三成からは、どうやったところで女らしさという言葉を見つけることは出来ないが、けれども抱き寄せる体の細さや握る手の柔らかさに、その度、吉継ははっとさせられる。男だとか女だとかで三成との関係が異なるとは吉継も思っていないが、しかし周囲はそうとは思わないだろうと思えばこそ、慎みとか危機意識とかいったものを少しは持って欲しいと思うのだ。もっとも、ただの男が三成をどうこうできるわけもないのだが。
 秀吉さま、半兵衛さまは一体こやつをどう育てたのか。
 思わずはぁ、とため息をもらせば、何を思ったか、三成がするりと猫のような動きで隣へと腰を下ろした。今さら三成の半裸姿など珍しくともなんともないが、その透けるような色合いの琥珀色の目でじっと見つめられるのには何年経とうが慣れられる気がしなかった。
「何を考えている?」
「ナニ、ぬしがあんまりつれぬでな、寂しいサビシイと泣いておったのよ」
 ヒヒヒと笑って泣き真似をしてみれば、不意に視界に影が落ちた。ゆっくりと見上げると、三成の瞳がこちらを見据えながら細められていくところだった。
「不満があるなら、直接言え。一人で悩むことは許可しない」
 吉継の肩に両手をかけ、おおいかぶさるようにして三成が脅す。攻撃的にも見える表情に、吉継はぺろりと唇をなめた。
「やはり、ぬしは愛い、愛い」
 片腕をつかんで引き倒す。すっぽりと腕の中に囲える体に、触れるだけの口付けを落とす。
 すぐに離れて言った吉継に向かって、三成がフンと鼻を鳴らしてみせた。
「もう満足したのか、吉継」
 薄い唇を引き伸ばし、にやりと笑う顔は凶悪である。
「半兵衛さまの肉はどうする」
「どうせお会いするのは月曜だ。明日食べればいい」
「すき焼きにすれば、さぞ美味であろうなァ。ほんに食いたいとは思わぬか」
「興味がない」
「ヒヒッ、食への興味のなさは相変わらずよ」
 ぬしがそれでよいのなら、そうささやき返して、吉継もまたにやりと笑うと、どちらともなく互いの熱を、貪り合う。
 愛しいという言葉を、これ以上重ねたところで意味はない。所詮、この思いを口で伝えきることなど、不可能なのだから。

 ――翌日の朝早く、半兵衛から確認の電話が入り、三成がしどろもどろに対応したというのは、また別のはなしである。

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2011/04/03

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