ピッコロ

 よく晴れた秋空の下、陽は春のように暖かく、これから来る冬を忘れるほど穏やかだ。しかし、そこに冷たい風が一度吹けば身体の熱はあっという間に奪われてしまい、冬の訪れが近いことを思い出させるのだった。

 街に溢れる人工的な光に目も心も冷え、自然が生み出す綺麗なものが見たくなった。この時期なら紅葉狩りだろうと、あまり会えない彼を思いきってデートに誘ったのは私だが、少し浮き足立っていたようだ。山に登るのだからもう少し温かい服を着るべきであったと冷たい風を浴びながら反省した。
 お目当ての景色はまだ先だ。歩きながら寒さに耐えるため反射的に肩をすくめて身を守る。無意識に冷えた指先を温めるように手を擦り合わせると、隣を歩くピッコロさんの手がふいに私の両手を包み込んだ。
 彼の手は大きく、片手だけで私の両手を覆ってしまう。すぐにじんわりと温かな彼の体温が手に移った。
「随分冷えてしまったな。そろそろ帰るか」
「まだ大丈夫だから、もう少しだけ駄目……?」
 彼を連れ出してまできたのだ、せめて見晴らしのいい場所まで行って彼にも紅葉に彩られた景色を楽しんで欲しかった。それにこうしてゆっくりと過ごすのも久々で、もう少し彼の隣を一緒に歩きたかったのだ。
「それならもう少し温かくしていろ」
 首と両手にふわふわとした温かさを覚えると同時に視界にマフラーと手袋が現れた。しかもそれらには律儀に私の好きな色が使われている。
「えへへ、ありがとう。とっても暖かい」
「ああ」
 時期的にこのモコモコの防寒具はまだ少し早い気がしないでも無い……が、彼なりに考えてくれた温かい服装なのだろう。
 そんな彼の加減を知らない優しさに笑っていると、私がよほど喜んでいると思ったのか彼は髪を梳くように私の頭を撫でた。
「もー、子どもじゃないんですよ?」
「フッ、今のお前は小さい子どもみたいだったぞ」
「なっ!やめてよ、恥ずかしい……」
 私もいい歳した大人である。子どもみたいにはしゃいだのが恥ずかしくマフラーに顔を埋めた。
「恥じることは無いだろう。お前はそうやって笑っているのが一番いい」
 その言葉に私は思わず息を止めた。例え周りの人が子ども染みた私を馬鹿にしたって、それでも彼がそう言ってくれるなら幾つになってもこのままの自分でいたいと思える。
 心の底から温かいものが込み上げてきて止めていた息を吐き出した。寒くなってきたせいか、どこか感傷的になっているようだ。
 胸に込み上げるものが涙になりそうなのを誤魔化すように口を開いた。
「ピッコロさんのそういうところが好き」
「な、なんだ唐突に……」
「上辺だけじゃなくて、私をちゃんと見てくれるから。そういうところ好きだなって」
「……それはなまえ、お前もだ」
 彼の隣はいつだって温かい。自分でも気付かぬうちに凍った心も、彼の何気ない一言で溶けていく。
 彼の腕に抱きつくように自分の腕を絡め彼を見上げる。大魔王と呼ばれてたことなんて嘘なんじゃないかと思うくらい優しい表情をした彼を見て、私も彼にとって温かい存在でいれたらいいなと、そう思った。



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