※大魔王後、23回天下一前くらい。
今日も今日とて修行に精を出す悟空の元に昼食を届けるため、予定よりも段の増えた重箱を車に積み込む。
いつもは別の場所で修行をしているのだという彼は決まった曜日になると私の住む町の外れにある森来ていた。そこは近隣に住む人だって行かないような山奥である。なんでも巨大な化け物がでるとかでないとか、色んな噂があり誰も森には入らなくなった。悟空の元に行くため何度も森に足を踏み入れているが、未だに噂になっている出来事に遭遇したことは無い。彼曰く、修行に集中したいから生き物は追い払ったらしい。知らず知らずに噂の化け物も追い払ってしまったのかもしれない。
道らしい道のない山道にガタガタと車が揺れる。お弁当が倒れないように気を配りながら目的の場所へ向かった。
森を潜り抜けると、開けた土地が姿を表した。車から降りて辺りを見渡せばすぐに悟空の姿が目に入る。
彼は崖っぷちで高く飛ぶように跳ね、突き出す拳は小さな風を起こし、蹴りあげた足は空を切った。その熟練した動きに思わず魅入ってしまう。
そんな私を呼び戻すかのように目の前に紅葉がひらひらと舞い、私は慌てて彼の名を呼んだ。
「ごーくーうー!」
「――なまえ!今日も飯もってきてくれたんか!」
「もちろん!今日はたくさん作っちゃったけど食べきれるかな」
「なまえの作る飯はうめえからいくらでも食えるぞ!」
「ふふ、それは良かった」
目にも止まらぬ早さで私の元へ来た悟空に幾つかに分けて包んだ重たいお弁当箱を渡す。悟空は全部軽々と持ち上げてしまうと木陰へ向かった。余程お腹が空いていたのか満面の笑みである。普段は人懐こくてどこか可愛げのある彼だが、改めて見る後ろ姿は逞しい男性で意識してしまうとドキドキと胸が音を立て始める。
お弁当を全て広げたところで一瞬、強く冷たい風が吹き身体がブルブルと震えた。
秋に移り変わる季節だというのに、陽射しの暖かさにそんなこともすっかり忘れていた。空を見上げると、先ほどまで出ていた筈の暖かな陽射しは雲に隠れ、時たま吹く風は冷たく強くなっていた。身体は寒さから強ばり肩が上がった。こんな日に限って羽織れそうなものは何も持ってきていない。
風邪を引く前に帰ろうかとも思ったが、天下一武道会を目指す彼とはそう頻繁に会えるわけでもなく、このまま帰ってしまうのも寂しい。食事を終えて一休みし、修行を再開するまでの間だけでも一緒にいたいと思い寒さに耐えた。
……しかし、そう時間も経たないうちに身体は正直に限界の訪れを告げる。
「くしゅんっ!」
「なまえ、寒いのか?」
「ちょっとだけね……。思ってたより風が冷たくて」
「そうだなあ……じゃあこうすりゃ寒くねえか?」
あの大量に作ったはずのお弁当はもう平らげてしまったらしく、彼はお弁当箱を綺麗に積み上げて端に寄せると、隣に座っていた私を足の間に引き込んだ。
「あ、ありがとう……」
「ひゃ〜、お前どこ触っても冷てぇなあ」
引き込んだときに掴んだ私の手が冷たかったのが気になったようで、手を握ったり私の頬を両手で挟んだりとあちこちに触れた。一応付き合ってる男女であるとはいえ、普段こんなにベタベタとしない彼からの突然なスキンシップに顔が赤くなる。そもそも彼、私の作るご飯に釣られたようなもので、男女のお付き合いというものが良くわからないまま承諾していたように見える。
それも相まって正直とても恥ずかしいが、ペタペタと肌に触れる彼の手は温かくなんだかとても安心した。
「悟空は温かいねえ」
「へへ、オラちょっと熱いくらいだ」
「あれだけ動いてればね」
「お前も一緒に修行するか?身体も温かくなるしさ」
「そ、それは無理かな……」
悟空の修行に1秒でもついていける自信も無ければイメージも湧かない、腕立て伏せだって5回できれば上出来な身体は一瞬でバテてしまうだろう。
しばらく彼の体温に包まれながら穏やかに会話をしていたが、身体が温かくなってきて同時に目蓋も重たくなってきた。このままではまずい。うっかり寝てしまいそうだ。彼の邪魔をするのは本意では無いが自分からこの温もりを振り払うことも出来なかった。
「ねえ、悟空。そろそろ修行再開しなくていいの?」
「うーん、それがさ。お前が冷たくて気持ちよくってなんか眠くなってきちまった」
「ふふ、私も。悟空が温かいから眠くなって来ちゃったよ」
「そっか、じゃあ一緒に昼寝するか!」
「え?わっ……!」
そろそろ帰ろうかなと、怠けそうな心に喝を入れそう口に出そうとした瞬間、悟空は私のお腹に手を回すとそのまま横になった。私も何の抵抗もできずにゴロンと一緒に横になる。
「修行は無理でも昼寝は一緒にできるもんな!」
「そ、うかも……だけど……!武道会近いんじゃなかった?し、修行しないと!ね!」
「ん〜、亀仙人のじっちゃんはさ――あ、オラの師匠なんだけど、よく寝るのも大事だって言ってた」
「……う、それなら……ちょっとくらいいいかな……」
万が一誰かに見られでもしたら恥ずかしいが、眠気や彼と一緒にいられることを天秤にかければ大人しく彼の腕の中に収まっているしか選択肢は無い。
彼の背に凭れていた状態で横になったため後ろから抱き締められている状態であったが、どうせなら向き合いたいと思い私はもぞもぞと彼の胸に頬を寄せるように体勢を変える。そうすれば悟空は動いて出来た隙間を埋めるように私をぎゅっと抱き締めた。くっついて眠る彼の体温が私の身体に移るようにぽかぽかと温かくなる。ああ、幸せだなあと自然に顔が綻んだ。
寝過ごして風邪を引かなければいいがと頭の片隅で考えながら抗えない眠気に目蓋を閉じた。