キッチンで作業していた名前の元へ駆けてきたのはニョンだった。ニョンはそのままそそくさと名前の背後に隠れる。何事だと背後に目を向ける前に、入り口から「待ちやがれ!」とニェンの声。また何か揉めているのだろうか、と今度こそニョンに目を向ける。「…」何も言わないものの、困ったように視線を泳がせ名前の傍から離れようとしないニョン。「どうしたの、ニェン」明らかに苛立っている様子の彼に名前が声をかける。
ニェンは持っていた煙草を見せた。「こいつ、俺の煙草水浸しにしやがった!まだ開けたばっかだったのに」ニェンが言うとおり、手の中にある煙草は水が滴るほどびしょ濡れになっている。これは確かに怒られても仕方がない。
「わ、わざとではないです…水が入ったコップを倒してしまって、偶然隣に置いてあったから…」うーん、と唸る名前。ニョンがわざとそんなことをするタイプじゃないことは知っている。かと言って、ダメにしてしまったのも事実だ。ニェンは変わらず怒っているし、ニョンは少しでも彼から身を隠そうとしているのか名前の服の裾を掴んで離そうとしない。
ニェンの味方をする
「濡らしちゃったのは事実だし、そこはちゃんと謝らなきゃ」「謝ったけど、ちゃんと聞いてくれなかったから…」
濡れた煙草を見たニェンはきっと頭にきてすぐに怒鳴ってしまったのだろう。容易く想像が出来る。「今ならきっと聞いてくれるから、ニェンに謝ろう?ほら、ニェン。ニョンが謝りたいって」「…ごめんなさい…」自分よりも体の小さい名前の背後に立ち恐る恐る謝るニョンは、名前に窘められたためかどことなくしょんぼりしていた。普通なら許してくれるわけがないけれど、ここには名前がいる。彼女がいればニェンは手を出したり、無碍に突っぱねたりしないことをニョンは知っていた。「…チッ。ちゃんと弁償しろよ」ほら、やっぱり。とニョンは心の中で呟く。名前が自分の言い分に賛同したからなのか、どことなく溜飲が下がっているように見えた。それでも自分が悪いことは事実だから、とニョンがお詫びの気持ちでおずおずと大麻を差し出すとニェンに「いらねぇよ!」とキレられた。
ニョンの味方をする
「確かに煙草はダメになっちゃったかもしれないけど…ニョンだってわざとじゃなかったと思うし、許してあげて」ニェンは眉間に皺を寄せた。ふざけんな、と言いたげな表情だ。それもこれも名前がニョンの味方をするから。今では濡れた煙草よりも、こうして無害なフリをして名前を味方につけるニョンに腹が立っていた。「次はねぇからな」それが何を意味するのかは知らないが、ニェンはニョンを睨みつけて言う。「お前もお前だ、いっつもこいつの味方ばっかりしやがって…」次いで怒りの矛先は名前へ。「ニェンが本当は優しくて、なんだかんだいつも許してあげることを知ってるから甘えちゃってるのかも。ごめんね」名前の言葉に、ニェンは目を丸くしたのちほんの少し頬を紅潮させた。「…ふん」と顔を逸らしてその場を立ち去ったニェン。彼と偶然すれ違ったセバスチャンは、とても機嫌が良さそうで不気味だったと後に語った。