「KK、入るよ。…KK?」
呼び出されてやってきたKKのアジト。鍵は開いてるから勝手に入れ、とメッセージがきていた。自由に出入りするのはいつものことだが一応声をかける。どうやら今はここにいないらしい。だったら鍵くらいかけなよ、物騒だな。というか呼びつけておいて本人はいないって…ため息と共に悪態をつきながら部屋に上がる。どうせすぐ帰ってくるだろうし待っていよう。
「お邪魔します…って、うわ…!びっくりした…」
とりあえずソファにでも座って、なんて考えていたら、知らない女の子が横になっていた。驚いて大きな声を出してしまいそうになり慌てて口を押さえた。彼女に特に反応は無い。寝ているのだろうか。多分会ったことない…よな。彼女はすやすやと気持ち良さそうに寝息を立てている。
確かKKに娘さんはいなかったはずだ。となると仕事仲間だろうか。友人にしては歳が離れているような気もするし。寝ているから何とも言えないが、僕と同じくらいに見える。
「おい」
「うわあっ!?」
「何してんだお前。なまえの顔ジッと見て」
「え?ああ、この人の名前か…いや、初めて会う人だなって」
「ほう?それにしちゃやけに熱心に見つめてたじゃねえか」
「その言い方は語弊があるよ」
突然KKに声をかけられ、僕は今度こそ大きな声を出した。びっくりしすぎて心臓が痛くなってきた。左胸を手で押さえながら背後に立っていたKKを見ると揶揄うようにそう言った。全く、そんなつもりは微塵も無いっていうのに。僕とKKが騒いでいたせいか彼女は目を覚ましてしまったようで、小さく唸りながら身体を捩らせた。
「おう、起きたか」
「んー…あれ、もしかして伊月暁人さん…?」
「あ、初めまして…伊月暁人です…」
「初めまして、みょうじなまえです。KKからよく伊月さんのお話聞いてます」
「…」
「普通の話しかしてねえっての」
僕を見るや否や、彼女は初めて会うはずの僕の名前を口にした。KKが僕の話を?嫌な予感がしてKKに視線を向けると、僕が言いたいことが伝わったようで溜息を吐いてそう言った。僕とKKの普通って結構違うんだよな…と思いつつ、何も言わないことにしておく。
「みょうじさんはどうしてここに?」
「堅っ苦しい呼び方だな。お互い名前で呼べばいいじゃねえか。確かお前ら歳も近かったろ?」
「今会ったばかりなんだから年齢知ってるわけないだろ?」
お互い名字で呼び合っていた僕たちを見てKKは煩わしそうに頭を掻く。近いかもしれないとは思っていたけど、その後の会話で僕となまえさんはどうやら同い年だということを知った。それに伴って…というよりはKKの言葉でお互いを名前で呼び合うこととなった。
「私はたまにここの家事をしに来てて…雑用係みたいなものかな」
見て分かる通り、KKは家事の類をほぼしない。キッチンだってご覧の有様だ。だから時折彼女が家事をしに来ているとのことだった。料理、洗濯、炊事…おまけに怪異絡みの資料集めまで。言葉通り、本当に色々な雑用をこなしているらしい。
「で、資料は?」
「はい。多分これで大丈夫だと思うけど…」
「お前が用意したって言えば凛子も文句は言わないだろ」
「さあ、どうだろ?…KK、お昼ご飯どうする?食べるなら作るけど」
「食う。カップ麺にも飽き飽きしてたとこだ」
KKはなまえさんからやけに分厚い資料を受け取り目を通す。あの量を纏めるのは大変だろうに、なまえさんは一人で準備をしたらしい。随分と器用な人だ。なまえさんは台所へ向かいKKに声をかける。資料を流し読みしていたKKは一度それを机に置いて頷いた。
「暁人くんも食べる?有り合わせになっちゃうけど…」
「うん、いただきます。あ、僕も手伝うよ」
「ありがとう」
冷蔵庫から材料を取り出すなまえさん。作ろうとしているのはオムライスだろうか。手伝うとはいえ邪魔になってはいけない。なまえさんに指示を仰いで食材を切る。彼女は僕の手元をまじまじと見ていた。
「…暁人くん、手際良いね」
「そう?一応家でもやってるからかな」
「凄いなあ。私、いつまで経っても慣れなくて」
「そのうち慣れるよ。それに、なまえさんだって手際良いと思うけど…」
「そんなことないよ」
何か問題でもあっただろうかと不安になっていたが、なまえさんが口にしたのは僕を褒める言葉だった。両親がいなくなってから台所に立つことが多くなったしそのおかげだろう。言わなくてもいいことは隠しつつそう言うと、なまえさんは眉尻を下げた。見ている限り卒なくこなしているというのに。
「腹減った」
「もうちょっと待って」
「ていうかKKも手伝ったら?」
「俺に出来ると思うか?」
「…ごめん」
「謝んなよ。逆に傷付くだろうが」
「はい、出来たよ。運んでくれる?」
僕たちの様子を横から眺めているKK。あとはなまえさんが盛り付けを終えれば完成だ。口を出すだけのKKに提案するも、まあ確かに料理とかしないよな…と自分の言葉を撤回する。綺麗に盛り付けられたオムライスはとても美味しそうだった。ケチャップで可愛らしいイラストまで描かれている。
「何だこれ?」
「分かった、ラブハチじゃない?」
「暁人くん正解!よく分かったね」
「特徴捉えてて分かりやすいよ」
「…全然分からん」
怪訝な顔をするKKになまえさんは唇を尖らせている。面白い人だな。皆で手を合わせオムライスを口に運ぶ。せっかく描いてくれたラブハチがいなくなるのはもったいないけど致し方ない。久々に食べる人の手料理はとても暖かく、美味しかった。
「ん、美味い」
「うん…本当に美味しいね」
「ありがと。暁人くんが手伝ってくれたおかげかな」
「僕はただ食材を切っただけだよ」
なまえさんは少し照れたようにはにかんだ。実際、僕は味付けには一切関与していない。なまえさんが料理上手なのはもちろんだったが、きっと誰かと食べるということも美味しく感じる一つの要因なのだろうと思った。…麻里にもいつか食べさせてやりたい。なまえさんにお願いしてみようかな、なんて思ったのは今はまだ僕だけの秘密だ。