昨晩KKから呼び出しを受けた僕はいつものようにアジトへ向かった。時間の指定はされなかったし、聞いても連絡がこない。念のため朝早めに行っておこうと思い向かったものの、KKは寝ているのか、それとも留守にしているのか鍵が空いていない。電話をしても電源が入っていないか電波の届かない場所にあるというアナウンスが流れてしまい、扉の前で途方に暮れていた。

「暁人くん?」
「なまえさん、おはよう」
「おはよ。来るの早いね」

ふわあ、と欠伸をしながら現れたなまえさんに経緯を説明すると納得したように苦笑いをする。合鍵を持っているなまえさんのおかげでようやく中に入れた。まだ寝ている可能性を考え静かに覗くと、KKは机に突っ伏していびきをかいていた。連日仕事が立て込んでいると言っていたし疲れているのだろう。起きたら連絡をしてくれという旨の書き置きを残し、僕となまえさんは近くの公園で時間を潰すことにした。

「なまえさん、いつもこの時間から来てるの?」
「ううん、今日はたまたま」
「そうなんだ?…なまえさんってさ、…いや、やっぱり何でもない」
「え、何?気になるから言ってよ」

言い淀んだ僕になまえさんは笑いながら言葉を促す。つい流れで聞いてしまいそうになったけど、この話題を出していいものなのか。もし聞かれたくないことだったら…そう思うと、つい口をつぐんでしまった。

「答えたくなかったらいいんだけど…その、一人暮らしなのかなって」
「うん。両親はもういないし、兄妹もいないから」
「…ごめん」
「全然!もう気持ちの整理もついてるし大丈夫」

聞くべきでは無かった。後悔し謝る僕に、なまえさんは笑ってそう言った。たとえ整理がついているとしても、もしかしたら僕の言葉がきっかけで何か辛いことを思い出してしまうかもしれない。そう考えると僕は胸が張り裂けそうな思いだった。同じように両親を亡くしているから、なんとなく分かる。

「僕も、両親はもういないんだ」
「そっか…兄妹はいるの?」
「妹が一人。今は色々あって入院してる」
「…ごめんね」

今度はなまえさんが謝った。別に謝られるようなことじゃない。そもそも先に聞いたのは僕だし、自分だけ何も言わないのはずるいと思っただけだ。お互いに謝るのはやめにしようと提案するとなまえさんは「そうだね」と頷き、自分のことを少しずつ話してくれた。
数年前、怪異絡みで両親を失ったこと。ぼんやりとは覚えているけど詳しいことは覚えておらず、それを思い出すのが怖いのだと言った。

「KKが助けてくれたのは覚えてるの。でも、どうしてあの状況になったのかとか、そういうことは全然覚えてなくて」
「無理に思い出す必要はないんじゃないかな」
「そうだね。…もし暁人くんが気になるならKKに聞いてみて」
「僕が?」
「うん。別に知られて困ることじゃないと思うし」

なまえさんは自分が知る必要は無いと言いながら、僕が知ることに対して何の問題も無いのだと言った。そこにどういう意図があるのかは分からないけど、気になるのは事実だ。もっとも、本当に聞いていいのだろうかという気持ちは当然ある。けれどなまえさんは自分で知る代わりに知ってほしいと僕に言った。

「機会があれば聞いてみるよ。…あ、KKだ」

話がひと段落ついたところで、タイミング良くKKから電話がかかってきた。どうやら目が覚めたらしい。シャワーを浴びるからその間に戻ってこいとのお達しだった。なまえさんに告げ一緒にアジトへと戻る。彼女は朝ご飯を作ってくれるとのことで手伝いを申し出たが断られてしまった。その言葉に甘えることにし、ソファに座ってニュースを眺めていると半裸のKKが姿を見せる。

「服くらい着てから出てきなよ…」
「朝から小言か?勘弁してくれ」

タオルで頭を拭きながら隣に座るKK。水滴飛んできてるんだけど。そう言いたかったが、言っても機嫌が悪くなりそうだから言わないでおくのが良さそうだ。全く、いい大人がだらしない。料理が出来上がったであろうなまえさんが食器を運び始めたため、手伝いに行こうと立ち上がるも彼女に制された。

「もう終わるから大丈夫」
「何から何までごめん」
「私の役目だからね」

そういえば、と先程の彼女との会話を思い出す。僕と同じ年齢ではあるが、なまえさんは大学には行っていないらしい。雑用係とは言っていたが実質アルバイトのようなもので、きちんと対価を貰っていると言っていた。だからと言って手伝わなくていいという理由にはならないけど。無関係の僕が言うのもどうかと思いつつ、やることもそれなりに多そうだし対価が発生していることに安心した。

「暁人、食ったら仕事だ」
「うん、分かった」
「二人とも気をつけてね」

ご飯、味噌汁、玉子焼きに焼き魚。定番ではあるが、なまえさんの手料理ということもありどれも美味しい。仕事と言いつつ何をするのかは全く知らされていないが、これを食べれば乗り切れそうだ。