2016/09/25
溶ける。 - 鋸鮫
食べてしまいたいほど可愛いとは良く言ったもので。
目の前の肢体に噛みつきながら、流れる血を啜るように舐める。
白い肌。紅い血。鉄の味。
「…あッ」
繋がった身体。触れたところからドロドロに溶けていくような。
恐怖。
境界が、無くなっていくような。
頬を女の指がなぞり、落ちていく。
絡みつく腕の熱さに目眩がしそうだ。
打ち付ける腰に弾ける肌の痛みで、やっと暴力性が戻ってくる。
ああ、これだ。まぐわいあうなら気持ち良くなければ。
女の目から溢れる涙が光って落ちる。
放たれた欲望と弾け飛んだ興奮の刹那、よみがえった恐怖でほんの少しだけ女を突き飛ばすように、身体を離した。
2016/09/21
マーキング - 雷
首筋を強く吸う。
即座に「ごめんなさい」と、か細い声が震える身体から絞り出される。
「…何が悪いか、分かっているか?」
ほんの些細なミスばかり犯す。
積もり積もって、大きなミスをする。
そんな女に仕立て上げたのは、他でもない自分だ。
「…っう、あ、神様ぁ、むね、とめてください」
羽交締めに彼女の身体を腕の中へ閉じ込めて、くりくりと頂をイジメながら、軽くたまに股へ押し付けた足の指から電流を送る。
「私、鈍臭くって、あ、神様、の、ああ、おしごとの、ジャマ、ばっかり…」
背骨に沿ってキスをする。
乱れた着衣を破きながら。
「で、具体的に?」
彼女のミスは数えきれない。
「やッ!ああ、いく、いく!かみさま、かみさまぁっ」
片方の手を彼女の柔らかい媚肉をわけて、硬くなった粒をくにくにと潰すと、怒るトーンと同じ速さで、強く強く堕ちていく。
「反省の色が見られないな。悪い子には、もっとオシオキをしないとなァ」
乱れた髪からのぞく、恐怖に満ちた瞳に輝く、暗い劣情の美しいことよ。
2016/09/21
顔から火が出る。 - 鋸鮫
手をつないだ、初めての彼氏の顔を思い出せない。
繋がれた手のひらの熱い温度と磯においと、蒸された酸味が漂う空気の中で、ああ、私、恋なんかしたことなかったんだなあ、と、思った。
「…っあ、とめて、ぇ、あ、あ」
質量のある男の中指が、丁寧に真奥をほぐす。
肩こり。自分でマッサージをすると、痛くなる前にブレーキがかかるのと同じで、自慰はほんとに慰めるくらいの強さしかかけてなかったんだ、と気が付かされる。
身体が跳ねる。男の吐息は乱れもしない。顔を見れない。目を見れない。私ばかりがイヤラシイ。
「やだ、やめて…っ、ねえ、あ!」
涙が浮かぶけどこぼれない。
羞恥心は行き過ぎると集中力を欠く。
燻り続ける中途半端な快楽が拷問のように続く。
「ん?」
目があう。
とろりと垂れるような殺意が、食べられてしまうんじゃないかって。
「……ああッ」
頭が白いモヤに落ちる。
快楽に沈む。
「そ、こ、」
「ここが、何だ?」
少し早くなる彼の指。
はやく、はやく飛んで。
「ん、」
好きすぎて緊張する。はやく交替したい。気持ちよくなって欲しいのに、前戯の時間が永遠のように長い。
「…っふ、ぁ、」
握る手に力を込める。
快楽が寄せては返す波のように行ったり来たり。
ちゃんと、濡れてるらしいのだけど。
今日もイケそうにないな。少し、膣が痛い。
「ね、…も、入れて、いい?」
男の太腿に手を這わす。
ああ、と指が抜かれる。
少しだけ彼のものを口に含んで、大きくさせる。
だけど、いつも思う。
最初から元気にならないのって、やっぱり私に魅力がないから、なのかなって。
「…んっ、」
男の吐息が漏れて、口が痛くなるくらい大きさが増す。
良かった、と私はやっと安心する。
「どうしたら良いか、教えて」
またがって見下ろした男は暗く笑う。
突き上げられて、涙が溢れる。
ーー私たち、相性よくないよね?
肉体と呼吸のリズムが合わないことが、こんなにも心を絶望させるなんて、知らなかったよ。
「あ、い…ッ、あ!あ!」
ぐいっと起き上がった男が、私の両足を彼の肩に乗せて、夢中で腰を打ち付ける。
痛い。なんて。言わない。
好きだ。…好き。
2016/09/17
まばゆい、はがゆい、こそばゆい - 雷
きらきら、きらきら。
笑う彼女は柄にもない例えをするが、光のようだ。
何をするにしても、この上ない幸せというように笑う。
きらきら。
どす黒い感情をぶつけて、その顔が歪むところを見てみたい。
そう思って、誘拐したのはいつのことだったろうか。
「…良いですよ、私はそのために生かされたのでしょう?」
笑った。
聖母のような、顔をして。
もう2度と穢せない。
せめてお前が末長くこの世界にとどまれるように。
堕天。
羽をむしる。
地上にやさしく叩きおとすのだ。
ああ、それなのに。
「かみさま」
きらきら、うるさい。
眩しい。
柄にもなく。
どうしようもないな。
2016/09/16
私を呪うのは貴方が吐き捨てる自由の言葉 - 鋸鮫
月明かりが、眼前の顔を照らす。
彫りが普段よりも強調されて見える。
美しい顔。
少なくとも、私にとっては。
顔に指を這わせる。
男がだらりと肘枕にした腕を動かし、私の髪の毛を雑に撫ぜる。
少しでも身じろぐと男が起きてしまうから、私はいつも身を硬くして目を瞑る。
「俺なんかにかまってるヒマがあったら、さっさと嫁に貰ってくれる男を見つけろよ」
眠たい声が降ってくる。
「さあ。そんな人、いるかしら」
重だるく痛む裸体を横たえて、私は彼をそっと見上げる。
暗く未来のない瞳。
「いるさ。俺が保証する」
どうしようもない優しさを感じるのは欲目のせいだけなのだろうか。
彼の身体からは、深海に沈むときのような静けさと、私だけだと思わせる心を許したような無防備さが、確かにあると思うのに。
「お前は幸せになれよ」
そう言うと彼は抱き締める。
私の幸せくらい、自分で決められる。
そう言い返せないのはーー
「がんばる」
祈るように抱き締めた彼の肩甲骨が、私を閉じ込めるために開く。
ああ、このまま地獄の底にでも落ちていけたら良いのに。