わかっているのは自分だけだと、
思っていたかった。





物は試しに、と思い立った。
強奪した船が、たまたま情婦に入れ込んでいた船長だったもので、宝石やドレスが多く手に入った。

それで、ふと思いついたのだった。
千代里に着せてみようと。

彼女をドレスやアクセサリーだらけの船室に呼びつけると、面食らったように後ずさりするものだから、その細腕を無理矢理に引っ張り、踏み入れさせた。

「……あの」

なおも腰が引けたように、千代里はキラキラと扉の向こうから差し込む日光を受けて光る宝石に目を見やる。
なんで私が呼ばれたの?と、言葉にしなくともわかるような顔をしている。
そこは、わかってほしいものなのだが。

「たまにはお前を着飾らせてみるのも、悪くないかと思ってな」

大げさに笑う。
恐縮そうに体を縮こめた千代里の尻を叩く。

「きゃっ」
「こんなもんに怖気付いてどうする。胸を張れ」

普段は姿勢がいい千代里だが、時折、卑屈な精神が影響してか猫背になる。
そんな女を隣に立たせるつもりはないのだから、ちゃんとしてほしいものだ。

「私こんな、着たことない…」

おずおずと引かれた腕をつかむ手に、片方の手を寄せて、頼るように寄り添ってくる。

「まあ、ロクなもん着せてこなかったからな」

さすがにもう自分の服をこれ見よがしに着せる事はないのだが、それにしても。
金を与えているのに、相変わらず貧相な服装なのは何故なのか。
身体のラインがわかる程度のTシャツに、ピッタリとしたジーンズ。それはそれで、スタイルがよくわかるせいか、見劣りはしないのだが。

「俺のためにかわいくなろうって思わないのか?着飾ったらどうなんだ」

などと、どうしようもないことを言いかけて、飲み込む。

「これなんか、似合うんじゃないか?」

黒く大きく背中のあいたドレスを放り投げる。
わあ、と声を上げて千代里は受け取り、顎で着ろ、と促されるまま、するすると服を脱いでいく。

「着替え、見るんですか?」

今更、そんなことを気にするか?と思いつつも、目を逸らしてやる。

「……あの、後ろ、チャックがあがらなくて」

困ったように、千代里はそっと目を逸らした男の腕に触れる。
彼がどことなく拗ねたような態度なのが、どうしてなのかわからない。

無言でゆっくりとチャックがあげられる。
そのまま、肩を撫ぜるように触れて、彼が鏡の方に千代里の身体を向け直す。

馬子にも衣装だな、くらいのことを言おうと思っていたのに、思いの外、似合っていて、一足飛びに大人になったように見えるその姿に、唾を飲む。

「似合う、な」

綺麗だとか、かわいいとか。
照れ臭いせいか、思ったように言葉が喉から出てこない。

黙ってネックレスを後ろからつける。
化粧でもすりゃ、かなりの見栄えになると思うのは、親心に似たものなのか、それとも。

「そ…そうですか?」

よく考えてみたら服を着飾るようなシチュエーションが少ないのだ。
よって、彼女の容姿を誉めたことも、あまりない。というか、ない。

言葉にしなくてもわかるほど嬉しそうに微笑む千代里に、口付ける。
やさしく、舌を絡めて、口蓋をざらりと舐める。
舌が絡み合う。追いかけるように、邪魔をしないように動く彼女の舌を傷つけないように甘噛みする。

「アーロン、さん」

苦しそうに目を潤ませて名前を呼ぶ。
彼女も、したくなったのか。
せっかく着せたのも、無意味になるな。
ここではさすがに、と千代里を抱き上げて船の寝室へと運ぶ。

深いスリットに、すぐずらせば胸が出るようなデザインは、行為にはおあつらえ向けである。

服を着たまま、というのも、それはそれで良いものがある……などと考えながら、彼女の身体を暴いていく。

うなじ、耳、口、と食む。
熱い吐息が漏れる。
彼女の手が服を脱がせて、胸板を撫でる。
もう慣れたような手つきで、ズボンも脱がされると、思ったより興奮している自身に呆れた気持ちになる。

ーーああ、食べてしまいたい。

よく育った胸を寄せて、チロチロと頂を交互に舐める。

「…っふ、ぁ」

最近、コイツは胸でもイケるようになった。
順調に開発が進んでいる。
自分の一挙手一投足で逐一上り詰める様が、かわいくてしかたがない。

「も、だめ、い……っ」

びくん、と体がはねる。

「もうイッたのか?」

わかりきったことを聞きつつ、スリットから手を入れて、股の奥に触れる。
温かい液体がとろりとこぼれてくる。

「あーあ、こんなに濡らして」

それを見せつけると、千代里は首をそむける。
恥ずかしそうに目をつぶって、震えているのが、嗜虐心をそそる。

「どうしてほしい?」

割れ目を触れるか触れないかで上下に触る。
震える体から、甘い声が漏れる。

「…意地悪しないでください」

涙目で訴える千代里の頬にキスをする。
どうにも、俺もダメになったものだ。

「どこが?」

スカートをたくし上げて、彼自身をあてがう。
長くなった髪が乱れて、汗で濡れた肌に吸い付く。

こんなに感じやすい身体になるとは思わなかった。

「は、ぁ…っ」

入れただけで軽く絶頂する。
幸福が快楽と結びついて、脳をめちゃくちゃに掻き混ぜる。

抽送がはじまると、ざらりと内壁を擦られるたびに痺れが背筋を駆け巡って脳天を貫く。
気持ち良すぎて、今、死ねたらいいのにとすら思う。

男の顔から汗が落ちる。
気持ちよさそうに無我夢中になっているその首に腕を回し、抱き寄せて、キスをする。

キスが終わると、足をぐいっと肩にかけるように開かせて、さらに奥を抉られる。

「アーロンさん、アーロンさん…!」

好き。
好きすぎて死にそう。

それだけは言えない。
だから彼の名前を呼び続ける。

好き、好き、好き。

奥を抉られるたびにぐわんぐわんと脳が揺れる。もう何度イッたのか、わからない。

「千代里」

切なく名前を呼ばれると、この人も同じ気持ちなのではないかと錯覚する。

ああ、好き。好きだ。
どうしようもなく。

一際、深く、長い絶頂を迎えると、堪えきれずに彼もドッと欲望を吐き出す。

ずる、と彼のモノが抜ける。
すごく寂しくなる。

隣に倒れ込んだ男が、よしよし、と頭を撫ぜてくる。
それを許可と取って、そっと控えめに彼の身体に抱きつく。

ずっと繋がっていられたらいいのに。
狂ってるかもしれないけど、そう思いさえする。

「ダメだな。着飾ってやろうと思ったが…」

結局、こうなってしまうと言いたいのだろう。

「私、もっと綺麗にした方がいいですか…?」

化粧やオシャレなんてものは、自分にはすぎたものだと千代里は思っていた。
あいまいな関係で、正妻、というわけでもないんだし、隣に立てるわけでもないし、と思っていたのだが……

「そりゃ、俺の女なんだから、綺麗な方がいいだろ」

瞬間、涙が込み上げる。
バレないように我慢して、顔を脇腹に押し付ける。

「……わかりました」

そしてこれを、男はとても後悔することになる。
見た目を整えた千代里が、たくさんの人の目を奪い、嫉妬に狂うまで、そう時間はかからないのだったーー