歓声が、あがる。
音にカラダを芯から揺らされる。

バンドを文化祭でやる、という彼を、心の奥でバカにしていた。

ノイトラが意外に器用だというのは知っていたが、まさか3ヶ月で軽いパフォーマンスを挟みながらのドラムができるようになるなんて思ってもいなかった。
ウルキオラは天才ですという顔をしてギターも元のコピー曲よりピロピロと手数も多いくらい、血色の悪い顔からは想像できないほどパワーのある演奏だし、グリムジョーは荒いけどロックにふさわしいギターボーカルで、獣のようなシャウトが様になっている。

ーーしょせん、高校生の文化祭とタカをくくっていた自分が恥ずかしい。

細身の筋肉質な身体が、ライトに照らされる。ノイトラの美しいシルエットが踊る。
不良で背も高いし人相も悪いから、モテないし、絡まれないし、ひっついてまわるテスラとウザ絡みをされる自分くらいが、彼の世界だって決めつけてた。

どっと、観客に押されて、我に帰る。
前に前にモッシュしていく集団から遠ざかり、熱気も少し落ち着く出口近くの壁に寄りかかって、腕を組む。

観客を数える受付も、彼らをボーッと眺めている。
悔しいくらい、カッコいい。

ふと視線を感じて横に振り向くと、PAをするザエルアポロと目があった。

「なに?」

口を動かす彼に近づく。
耳を貸せ、という仕草をするから、素直に近づけると、ペロリと耳の裏を舐められた。

「ちょっと!!」

思い切り頬をひっぱたく。
音にかき消されて、誰も気がつかない。

途端、ノイトラの音が、少し狂う。
それも微妙にテンポが速くなったくらいで、すぐに落ち着きを取り戻したけれど。

ほんとにわからない人ね、とネルはザエルアポロを睨みつけて、バンドに目を戻す。
不思議と、ドラムにばかり目がいってしまう。

やだ、またノイトラ、私を睨んでる。

自意識過剰なんじゃないかとも思ったことがあったが、あの男の執着心はホンモノだった。

何かにつけて勝負を挑んでくる。
それで私に勝てたことはないけど。

大歓声の中で曲が終わる。
アンコールの拍手が響く。

私の負けね。
うまくいきっこないなんて、賭けをしたのが間違いだった。
あの男の執念深さ、もとい集中力の高さと誰よりも努力するところを、自分は1番、側で見てきたはずなのに。

いつの間に、手のかかる弟のように思ってきたのだろう。

「バカやろう!アンコールするほど曲ねえよ!」

グリムジョーが叫ぶ。
ギャグを飛ばせるような頭はないから、多分本当なのだろう。

そっと、特設ライブ会場になった視聴覚室を抜ける。

外に出ると、ヒンヤリとした秋の空気。ざわざわと喧騒が大きくなっている。友だちや恋人たちと校内を回るお客さんがまた増えていた。

近くの購買スペースで、水を買う。

「素直に負けを認めなきゃね」

でも負けたことが嬉しい気もする。

控え室に入るとメンバーはみんな半裸になっていた。
運動部でもないくせに、なぜこの男どもは腹筋も背筋もバキバキなのだろうか…

「ノイトラ」

ペットボトルを投げる。
片手で受け取って、長椅子に寝転がるノイトラが頭から被る。

「はい、2人にも」

グリムジョーは一気飲み。
ウルキオラは「礼を言う」と一言。

「ネル、俺の勝ちだな」

いつものニヤニヤした笑いからは程遠い、爽やかな笑顔でこちらを見る。

「そうね。お望み通り、なんでもひとつ言うことを聞くわ」
「惚れた女に言われてぇなあ、そういうエロいセリフ」
「うるせえな!!」

グリムジョーが絡んでくる。
かっと頬が熱くなったが、無視してノイトラを睨む。

ノイトラが立ち上がって、その長身で覆い被さるように、壁に追い詰めてくる。

「ずっとお前になにをさせようか考え続けてきたんだぜ、ネル?」
「…変なことは、いやよ」

髪をくるくると指に巻きつけて、彼は遊びながら、口を開く。
薄い唇。長い舌。いつもはダラシないとか汚いとか罵れるのに、なんだか濡れた髪と汗まで、セクシーだと思った自分が許せない。

「お前、今後一切、一護にスキンシップ取るな」
「え…そんなこと?」

猫耳をつけて1日いろとか、テストで悪い点を取れとか、ノーパンノーブラでいろとか普段なら恥ずかしいこと、面倒くさそうなことを言ってくると思っていたのに拍子抜けする。

「ったく見てらんねーな。お前ら、もう付き合えよ」

グリムジョーが呆れたように声を上げる。

「あーあ、もったいねえ!俺なら胸揉ませろとかセックスさせろとかその権利を有意義に使うぜ?」
「てめっ…、ふざけんな!」

乱闘が始まったところに、織姫が、ウルキオラくーん!と元気よく入ってくる。
あの無表情が少し明るくなる。

一護たちも当たり前のように雪崩れ込んできて、また無表情が元に戻る。

「あっ、イチゴ!」

飛びつきかけたのを抑えて、手を振る。

「…バンド解散か?」

乱闘を見てルキアがぽつりとこぼす。

そうなれば、いいのにな。
心の奥でちくっと針の刺さったような痛みを感じながら、ノイトラの首根っこを掴んでグリムジョーから引き離す。

いまはまだ、この獣と付き合うなんて、考えられない。

いまは、まだ。