願い成就



 俺には幼馴染が居る。
あいつには何も言わずにフランスへ行き、そして現在この月城医大に居る。
(……あいつ、元気にしてるだろうか)
不意に脳裏にちらつく人懐っこい笑顔の幼馴染の姿。

「真琴ー!」
「うわっ!? 慶次!いきなり飛びつくな!」
「なんかさー、元気なさそうだったからさ、元気づけてやろうと思って……」
「……」
「……あー、わかった。ごめん、俺が悪かったよ。
でも、真琴がなんか寂しそうだったのがいけないんだからなっ!」
最後の方は殆ど逆切れされていたような気がする。
慌ただしく慶次がそう言って、来た道を戻ろうとしたのだが、何故か戻って来た。
「……なんだ?」
「……ほら」
「は?」
渡されたものに思わず声が出る。慶次はそのまま逃げるようにその場を走り去ってしまった。
少し遠くで看護師の注意が聞こえた。


 手に残された、何も書かれていない短冊。
(そうか、七夕……)
「お、真琴ではないか。こんな廊下の真ん中で立ち止まってどうしたのだ?」
「いや、慶次に」
言う間もなく、手元を覗いて来た政宗は納得と笑顔を浮かべる。
「真琴も何かお願いを書くといい。俺も先程慶次から短冊を貰ったのでな」
「ま、政宗は書いたのか!?」
思わず訊ねてしまった。こういった行事は孤児院に居た時にくらいで、基本あまり参加をしてこなかった。大体はあいつが誘ってきて参加を渋々していたようなものだ。

 しかしまぁ相変わらずと言えば、相変わらずの答えが返って来た。
『願いは秘密だ。イケメンである俺の願いはその方がよかろう』

短冊を目の前に、休憩室で政宗のシルエットが浮かぶ。
願いは―――。


"長政に会えたらいい、かな"





「真琴、会いに来たよ」
その夜、彼が、まるで七夕の織姫のような姿で現れた。
「真琴ってば勝手に居なくなっちゃうから、俺、淋しかったんだよ……?
でも今日は会えるってそんな気がしてたんだ」
にこりと笑って長政は真琴の手を引く。きらきらと輝く星の間を飛ぶ……という夢を見た。


 (夢か……)
目覚ましの鳴る少し前に目が覚めてそう、心の中で呟いた。
今日も月城での一日がはじまる。

 朝の挨拶もそこそこに、回診やカルテチェック、カンファレンス、オペと慌ただしく一日が動き出す。
病棟の廊下、曲がり角で……、
「っ」
誰かとぶつかった。
「す、すみません。俺急いでたので……、怪我はあり……――真琴?」
その声に苛立ちも霧散し、顔を上げる。
「長、政?」
何故ここに彼が居るのか、理解が出来なかった。もしかしたらまだ夢を見ているのかもしれないと。
「わぁ!本当に真琴だ!!」
巨体が真琴に覆いかぶさる。ぎゅうぎゅうと抱きしめられ苦しい。
「い、いきなり抱きつくな!」
「ご、ごめん……。嬉しくってつい……。真琴が月城に居るなんて思わなかった。あ、俺今日から月城(ここ)で研修生として働くことになったんだ」
少し気恥しそうに笑いながらそういう長政に、思わず胸の奥が熱くなって、長政に注意したばかりだというのに自ら彼を抱きしめた。
「ま、真琴!? ど、どうしたの……?」
「いや、仕返しだ」
「え、仕返し?」
(まさか、とは思うけど)
ひねくれた願いを叶えてくれて、有難う。
病棟の笹の葉にはつるさなかった短冊を思い出したのだった。

 暫くは長政に仕返しという口実を作っては、会いたかった間の時間を埋めるように、距離を縮めて行ったのだった。


END



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