夏のみぞれに甘風が凪ぐ
「お、りんご飴」
「綿菓子がある」
酷暑を引きずったままの、宵。
辺りを薄ら橙に照らすその場所は、空間というものを響かせるように祭囃子がこだまを返していた。
「それにしてもあっついなぁ」
「別に無理して来なくてもよかったんだよ。僕は君を誘った覚えはないんだからね」
浴衣に身を包んだ、対照的な二人。
パタパタと扇子で仰ぐ秀吉に対し、信長は面白くないとばかりに口を尖らせた。
「そないな事言って、本当は嬉しい癖に」
ギロリと睨み付ける彼に、気にした様子もなく秀吉はあ!と目を輝かせて、信長から離れて行ってしまう。それをほんの少し躊躇うように伸ばしかける手。
(……何やってるんだろう、僕は)
「おっちゃんみぞれ2つな」
ピースサインを作りながら、出店の男と話をしている彼の姿に、どうしようもない気持ちになる。
物音がずっと遠くに感じるように思えた時だ。
「緋田センセ?」
「……っ」
いつの間にか戻って来た秀吉の声に、現実へと戻された。相変わらず響いている祭囃子に人々の声、雑踏の中に居る事を認識させられる。
首筋を伝う汗の感覚が妙に生々しく感じた。
「ほら、暑い時はカキ氷が一番やで」
そう言って片方の器をこちらへと寄越してきた。何の色のついてない氷を怪訝そうに見つめた。
「緋田センセ、甘いの好きやけどいちごとかああいうの好かんのやろ? せやから俺と同じみぞれにしてきたんよ。みぞれなら緋田センセも食べれるやろ?」
そう言う秀吉に信長は仕方ないなと受け取りながらも、どこかで嬉しい気持ちだった。絶対に言わないけど。
砂糖を溶かしたみぞれが冷たい氷に絡んで程よく口の中で解けて、火照った体を冷やしていった。この暑さではすぐに熱は戻って来るが、食べている間は、それなりにましだった。
祭りに行こうと誘ったのも偶然。
本当は真琴を誘ったつもりだった。だが、飛びついたのは秀吉だった。
『なんや、祭りがあるん? ええなぁ、俺も行く』
『俺達も後で合流する。まだ仕事を終えられなくてな』
『なぁなぁ、俺も行っていい? みっちゃんも行こうぜ』
『俺は別に行かなくてもいいんですけど』
『いいから!』
はぁ……と深いため息をつく三成の姿を思い出す。いつの間にか話しを聞いていたメンバーが話しを盛り上げていった。
そして気が付けば、最初に合流したのが、秀吉だったという訳だ。
「ねえ、こういうのって普通互いに食べさせたりとかしないのかい?」
「……へ?」
目をまん丸にして秀吉の足が止まった。
「そういうんは、違う味の持ってて仲ようしてる人がやるもんやで」
「僕は人工的な甘さは好きじゃないよ」
「せやかて……」
戸惑う彼を前に構わず立ち塞がった。
人は何を気にするでもなく、途中こちらの様子が気になる者もちらほらと視界に入る。
変な奴とばかりの表情を浮かべ、彼は観念して同じ味の氷を掬ってこちらに差し出す。暑さに溶けてしまっている少量の氷を咥内へ導いた。
――同じ味だというのに、何故だろう。とても不思議なほど甘く感じたのだった……。
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