最後までキミに言えなかった5文字と9文字の計14文字の言葉を
その言葉を口に出すのが、躊躇われてしまうのは何故か。
最後までキミに言えなかった5文字と9文字の計14文字の言葉を
「今日も相変わらずだな、三成」
ふっと笑う彼にその言葉が胸に突き刺さったまま、どうしようもない熱を帯びる。
「いつもの事ですから、放っておいてください」
「そうはいくか。お前に倒れられると……困る」
可愛い事を言う真琴に思わず赤面してしまう。幸いここに居るのは彼だけだ。
けれどそんな姿を見せたくなくて、顔を逸らしてしまう。
「自分の事なので倒れた所で問題ないですから。それよりも早くいかないと、回診に遅れますよ」
「ああ。それじゃ、三成。また後で」
そう言って真琴は廊下を歩いて行った。彼もまた研究室へと足を進める。
彼に惹かれ、共に居る事にして、恋人という間柄になって。今更言えないでいる言葉。
それが日を経つ毎に深く心を蝕んでいくように疼くのだった。
(三成、様子がおかしかったが大丈夫だろうか?)
「あっ、真琴!」
「ん? うわっ!?」
考え事をしている際中、後方に響いた声に振り返るよりも早く、後ろに重力が掛かる。抱きつかれたのだとすぐに理解する。その体格に呆れ声を上げた。
「長政……」
「えへへ、おはよう。真琴」
「おはよう。長政。……それと、いきなり抱きついて来るなよ」
「ご、ごめん。つい……」
苦笑いを浮かべながらも少し顔を赤らめている長政。気まずくなるならしなければいいのにと思いつつ、他愛のない会話を交わす。
いつもと変わらない。
「ちょっと! このオペは僕が執刀る筈だっただろ!?」
「お前、その前に2つもオペがあるだろう。此処は伊達川が――」
「許されないよ、僕が執刀るって言ってるだろう? 明紫波」
そんな1日だ。
研究室にお昼を摂らない三成を食堂へ連れ出す為に向かう。
「三成。昼だ。食堂に行くぞ」
ガチャッとドアを開ければいつものように研究に没頭している彼の姿。顕微鏡を覗いたまま考え事をしている様子。
「おい、三成。聞こえてるか?」
そっと彼の肩に手を触れさせると驚いたのだろう、肩が大きく跳ねた。
その様子に気まずさが色づく。
「す、すみません。集中していたもので……っ」
「いや、俺も悪かった。急に触ったりして。大丈夫か?」
「ええ。心配には及びません」
何故だろう、落ち着かない。
三成は眼鏡を外しては拭いてを何度か繰り返している。
双方とも落ち着かないのは何故なのか。考えても答えは見つからなかった。
「食堂に行こう」
「ええ」
漸く出せた言葉は本来の目的だった事だけだ。あの場の空気をどうにかしようと思っていたが、何も思い浮かばなかったのだ。とりあえず、研究室から三成を連れ出す事には成功したので、安心して昼食を摂る事が出来ると真琴は内心思っていた。
食堂に着くと、それぞれ昼食を持って空いているテーブルに着いた。
言わずとも真琴は鯖定食だ。そして三成も……。
「三成……」
「はい?」
向かい合う形で座った二人、真琴の視線は三成の昼食だ。
「調子悪いのか?」
「え?」
そんな事を言う彼に三成は何を言っているんだと怪訝そうな顔をする。
「だって、三成それ……」
口を開いた真琴の声を遮るように、向こうから元気な声が飛んで来た。
「あー珍しい! みっちゃんがちゃんとお昼食べに来てるなんてさ!」
「うるさいですよ」
「本当だナ、中々のひきこもり生活してるのに珍しい事もあるんだな」
「真葉まで……何なんですか」
「……」
それ以降は誰も口を開かなくなった。
「何ですか? 黙り込んで」
「いや、だってみっちゃんが」
「なぁ?」
慶次も幸村も揃いに揃ってその光景に困惑している。勿論真琴もそうだ。
その視線はみんなして自分の手元に集中している。
(そんなに俺が昼を食べているのが珍しいですか。まぁ、あまり来ないのもありますけど……)
そう思いながら箸を進める。
「ん?」
違和感がある。
なんだかいつもよりコシがあって、長いような。
視線をずらせばそこにあったのは米ではなく蕎麦だった。
トレイには他にお稲荷さんと塩むすびがおいてある。
「みっちゃんが、米以外を食べてる……」
「失礼な。た、たまには食べますよ。米以外だって」
「でも、今なんかおかしいみたいな顔したよな?」
「してたナ、間違いない」
「……」
そんな指摘に三成は黙り込んだ。
(もう、俺は真琴にずっと言いたい事があって悩んでいるというのに……。俺も俺ですね、こんなに動揺しているなんて)
「三成?」
黙り込んでしまった彼に不安が漂って来る。相変わらず食堂は賑やかだがこの場所だけ何故か別の空間になってしまったようなそんな感じがした。
「ま、まぁとりあえずみっちゃんの隣でオレも昼にするかなー」
ドカッと慶次が三成の隣の席に座る。
「じゃあオレはこっちだナ」
そう言ってのんびりとした動作で幸村が真琴の隣に腰を下ろした。慶次は宣言通り三成の横でハンバーガーを食べ始めた。
「賑やかな昼になってよかったな、三成」
そう言って笑う。
「どこがですか」
と呆れた顔で返す三成。互いに選んだものを食べて、時に話しをして昼を過ごした。
昼休憩も終わり個々に離れていく。そんな中、ずっと考えていた。どうやって誠に気持ちを伝えようかと。もう恋人なのだから、伝えなくても伝わっている気もする。しかし自分からそれを口にしたことがあったかと問われれば無いに等しいのだ。
グルグルと巡る思考に言葉が集まっては散り散りになる。
いっその事獣ウイルスで伝えてみてはという突拍子もない事が浮かぶが、ウイルスも生きている、そう上手くいかないのが目に見えている。まず、彼に冷めた目で見られそうだとその考え自体を止めた。
たった数十文字程度の気持ちを、どうしてこんなにも伝えられないのだろう。
「今帰りか」
不意に後ろから声を掛けられ、あれから時間が経ったことに気づく。
レポートをまとめ、必要な書類を明紫波に渡しに行ったりとしている内に、時間は驚くくらい経っていたようだ。
「いえ、俺はまだやる事が」
「今日は帰るぞ。それにもういい時間だ。お前の場合このまま残しておくと徹夜されそうだし」
「必要があれば徹夜くらいしますよ」
「……徹夜する必要ないから、今日は帰るぞ」
そう言って腕を引っ張って速足に研究室へと向かう。そんな彼に振り回されながら、帰り支度をさせられ、渋々と帰宅することになった。
ふと、今なら伝えられるのではないかと思って開きかける口、夜風にその声は連れ去られてしまう。ただ、言いたかった5文字(おもい)ではなく、それよりも難しいかもしれない2文字が口をついた。
「好きですよ、真琴」
「なんだ? 急に」
「いえ、これだけでも伝えておきたいと思いまして」
「変な奴だな。知ってるよ、三成が俺の事大事に思ってくれてるって事」
ついて出た思わぬ言葉に顔をほんの少し紅くするも、意外とするりと伝えられたことに驚きを隠せていただろうか? そんな事を思ってしまう。
最後まであなたに言えなかった、5文字と9文字の計14文字の言葉。
焦らず、いつかちゃんと伝えられたら……そう心に言い聞かせたのだった。
fine
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