しあわせの呪い

「憂太、誕生日おめでとう!海外とかの任務ない時で良かったな〜」
「だな、当日にこうやってみんなでお祝いできて良かったよ。夢子がずーっと皆でパーティーしたいって言い張ってたからさ。とにかく、憂太おめっとさん。私の誕生日なんて泊まりがけの超きっつい任務だったってのによ〜」
「真希ちゃん、それ言わない約束…!あ、えっと、憂太くん、おめでとう」
「憂太、しゃけしゃけ〜!!」

三者三様なお祝いの言葉に僕の口角は緩むばかりで、きっと締まりのない顔をしていると思う。
信頼している同期の皆、そして大好きな恋人に誕生日をお祝いしてもらえるなんて、高専に来るまでの僕には考えられなかったような幸せすぎる時間だ。

「皆にお祝いしてもらえて、こんな美味しい食事まで食べられてほんと嬉しいよ。ありがとう!」
パンダ君、真希さん、狗巻くんに御礼を言いながら、そっと机の下で隣に座る夢子ちゃんの手を握る。そのまま向かいに座る三人には笑顔を向けながら、ピクリと少しだけ震えた手の指を1本1本ゆっくりと絡ませるように握り込んだ。


その後も食堂での賑やかな会は続き、その終盤にはまさかのサプライズで夢子ちゃんの手作りバースデーケーキまで出てきて、あまりの幸福に満たされる空間と時間に思わず感極まった僕は皆の前で少しだけ涙ぐんでしまった。
僕の様子を気にしたのか、夢子ちゃんの方からも僕の手をぎゅっと握りしめてくれて、その温もりに余計に涙腺が緩んでしまって泣き笑いのような顔を皆に見せることとなってしまったのは言うまでもない。


そして、そんな楽しいパーティーもお開きになって。
『もう少し一緒にいたい』と夢子ちゃんの耳に囁くと、彼女もか細い声で『私も…』と言ってくれたのをいいことに、そのまま男子寮の僕の部屋へと連れてきてしまった。


「…やっと2人きりになれたね」
僕の部屋に来る度にいつも里香ちゃんの写真に挨拶するかのように顔を向けてくれる夢子ちゃんを背後から抱きしめる。そして、少しの気まずさから里香ちゃんの写真はそっと机の上に伏せた。

付き合うようになってからも、夢子ちゃんは里香ちゃんとの想い出は大切にした方がいいよ、と色々そっと仕舞い込もうとした僕に想い出との向き合い方を教えてくれた。
だから、変わることなく里香ちゃんとの子供の頃の写真は飾ったままにしているけれど、やっぱり写真と言えども今はちょっとその視線は躱したいから。


抱きしめる僕の腕にそろりと手を添えた夢子ちゃんは振り向かないまま「…2人になれて私もうれしい」とフワフワとした声で言った。
視界に入っている小さな耳はどことなく赤らんでいて、そんな可愛い彼女の姿に僕の心拍数は跳ねるばかり。

きっと自分で言ったことが恥ずかしいんだろうな。
その証拠に夢子ちゃんは僕の腕の中で全く身動ぐこともなく、振り返ってもくれない。本当に照れ屋で可愛すぎる…。


「はぁー…だめ、もう我慢できないや」
僕は言葉と共に目の前にある細い首へと吸い付いた。そして、僕の行為でようやく少し身動いだ彼女のことを振り向かせると、そのまま壁際まで彼女を追い詰める。
そっと壁に夢子ちゃんを押しつけると揺れる瞳で此方を見上げる彼女の顔を一瞥した後すぐに、それ以上の言葉は発することなくその唇を塞いだ。

最初から舌を絡め取るように深く深く口付ける。

僕の攻めに息が続かなくなったらしい彼女が逃げるように顔を動かそうとしたから、逃がさないという言葉の代わりにその後頭部に手を添えて、ますます熱く深い口付けを彼女に贈った。

僕のそんなキスにだんだんと夢子ちゃんの身体の力が抜けてくるのがわかり、腰から崩れ落ちそうになったところを抱き止めると、そのままベッドへと彼女を連れていく。
そして、蕩けた瞳を向けてくる彼女の上に跨がると僕は制服を脱ぎながら「残りの僕の誕生日の時間は君だけのものにして」と言った後、また彼女の唇に喰らいつくように口付けた。


僕の誕生日で気持ちが昂っているのか、僕の名前を息も切れ切れに「ゆうた…っ」といつもよりも沢山呼んで感じた顔を見せてくれる彼女を誕生日という日が終わっても朝まで何度となく抱き潰してしまった。