初夏の明るい陽射しに手を晒すようにして、赤いマニキュアを塗っていた。長椅子タイプのソファに腰掛けて、一本一本と慎重にする。普段の仕事の時は両手で銃を構えるのもわけないのに、化粧となると急に不器用になってしまう。右手はそこそこいい感じにできたのに、左手はそれはもうずれるずれる。暫く自分の爪を睨み付けて、そして私はマニキュアを放り投げた。


「あー!!!難しい!!!!」


ちまちました作業にとうとう匙を投げてしまった私に、隣のソファで漫画を捲っていた治が煩そうに顔を上げた。


「煩いよなまえ」
「いやなんで治は私の部屋にいるのよ。仕事なんじゃなかったの」


怠惰な猫のように身体をソファに投げ出す治を睨むと、彼は手にしていた漫画を放り投げてしまった。弧を描いて飛んでいったそれが、床へと落下してしまう。本はもっと丁寧に扱ってほしい。


「私はねぇ、退屈なんだよ。今日森さんの付き添いで行った先の会合もさっさと片付いてしまったし。
紅差し

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