空が高い。青々とした夏の空は頭上高く、どこまでも広がっていて、果てが無いように感じられる。「ねえ」と傍らの七海を呼んだ赤い薔薇の唇を、彼は胡乱な目つきで見上げる。

 「何ですか」
 「七海くん、好きな子いる?」

 唐突な質問はいつものことだった。はあ、とため息を吐いて「いませんよ」と答える。一般人よりもずっと優れた身体能力で、屋上を囲うフェンスの上を軽々と歩行しながらなまえはくすくすと笑った。

 「じゃあ、私と結婚してくれる?」

 ふふ、と花のような笑みを浮かべるなまえは七海の一つ上の先輩にあたる少女だった。年上とは思えないような子供っぽい言動をすることのある人物だったが、七海は彼女のことを嫌いにはなれなかった。だから今も、昼休みが終わる少し前という本来ならばこんな所でだらだらしているわけにはいかない時間でも、呼び出しに応じてしまうのだった。
 なまえは、この数年後に任務で亡くなった。彼女の遺体は、被せられた白い布によってその姿さえも見る子とは叶わなかった。風が吹く。夏の暑い風の向こうに手を伸ばした自分のそれが、彼女の小さな華奢な手に重なった。なにか言おうと口を開けるが、自分がその時なにを言おうとしたのかは今となってはもう覚えてはいなかった。ただ、七海の言葉を聞いたなまえが、穢れのない真っ白な花弁のひとひらのような微笑みを傾けた様子だけが、瞼の今でもひとつの永遠の情景として揺れているのだった。
六月の花嫁

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