同じ学年の粟田口厚くん。サッカー部に入っていて、皆の人気者。夏の青空、笑い声。大地を焦がす灼熱の太陽。彼は私の光。私のピエタ。
「あー!またみょうじが変な本読んでるぞ!!」
男子生徒の声と共に、読んでいた小説を取り上げられる。放射線を描くように放り投げられたそれがばさりと床に落ちて、何人かの足で蹴飛ばされる。
長く伸ばした髪を引っ張れて晒しもののようにされる気分は決して良いものではない。私を直接いじめるクラスメイトも、それを遠目で見ている臆病なクラスメイトも、好奇の視線を注いでくるクラスメイトも。皆一様に私に視線を注いでいる。
「みょうじさん、なんでそんな髪長いの?早く切ればいいのに。きたなーい」
「あっ動くなって。みょうじの髪せっかく綺麗なのに変に千切れたりしたら勿体ないだろ…お、取れたぜ!」
「なまえちゃんのお父さんって変な宗教家だったんでしょ?うちのママが話しかけちゃダメって言ってた」
「みょうじのご両親、まだ帰ってないんだろ?よかったらウチ寄ってくか?兄弟たちもいるしさ、みょうじがいたら弟たちも喜ぶと思う」
(厚くん)
かつて一年だけ同じクラスになったことがる厚くん。あの頃は私もまだいじめられてはなかった。クラスでいつも一人でいた私にも、変に気を回すことなく、しかし優しく接してくれた。伸ばした前髪から覗く世界の中で、いつも彼のことだけがきらきら輝いて見えた。
「おいみょうじ、聞いてんのかよ!!!」
どん、と肩を押されてその拍子に転んでしまう。だが私は私をいじめるクラスメイトのことよりも、厚くんのことで頭がいっぱいだった。私の学校に来る理由といえば、唯一の趣味といえば、本を読んだり夜空の星を眺める以外には大好きな彼を遠目で眺めるくらいなのだ。
げしげしと足蹴にされる。なんとか目は守らなければ。厚くんを見れなくなったらどうしてくれよう。彼を見ている間だけ、私の人生はきらきらするのに。まるで夏の日差しを受けるプールの水のような輝きを持てるのに。
「あっ、チャイムだ!」
きーんこーんかーんこーん。と、聞きなれた変わり映えのない鐘の音が聴こえる。予鈴だ。
クラスメイトたちは舌打ちをしてから、それぞれ机から理科の教科書を持ち出して移動教室へ行ってしまった。そういえば次の時間はカエルの解剖だった。忘れてた。
一人、廊下の隅に残される。放り出されたままの本を持ち上げて、表紙についた埃を払ってやる。
「みょうじ、そんな難しい本読むんだな。みょうじは皆が知らないこと知ってるし、すげえなーってよく思うんだ」
そういえば、そんなことも言ってくれたな。
日々、思い出すのは厚くんのことばかりだ。
顔を上げて、窓の外の校庭を見る。遊んでいた子たちも各々の教室へ帰っていく中、何人かの男子たちの中に厚くんが混ざっているのが遠くからでもはっきりと分かる。汗をかいて、サッカーボール片手に楽し気に笑う彼の笑顔はまさしく太陽のそれだった。自分が決して近寄れない世界の人。窓一枚隔てているだけでも、自分と彼と言う人間の差がありありと分かってしまう。
きーんこーんかーんこーん。今度は始業のチャイムが鳴った。
だが私はそんなことは気にせず、彼が校庭を立ち去るまでずっと外を眺めていた。そっと唇を寄せた窓からは、夏の熱さが伝わってきた。
「あー!またみょうじが変な本読んでるぞ!!」
男子生徒の声と共に、読んでいた小説を取り上げられる。放射線を描くように放り投げられたそれがばさりと床に落ちて、何人かの足で蹴飛ばされる。
長く伸ばした髪を引っ張れて晒しもののようにされる気分は決して良いものではない。私を直接いじめるクラスメイトも、それを遠目で見ている臆病なクラスメイトも、好奇の視線を注いでくるクラスメイトも。皆一様に私に視線を注いでいる。
「みょうじさん、なんでそんな髪長いの?早く切ればいいのに。きたなーい」
「あっ動くなって。みょうじの髪せっかく綺麗なのに変に千切れたりしたら勿体ないだろ…お、取れたぜ!」
「なまえちゃんのお父さんって変な宗教家だったんでしょ?うちのママが話しかけちゃダメって言ってた」
「みょうじのご両親、まだ帰ってないんだろ?よかったらウチ寄ってくか?兄弟たちもいるしさ、みょうじがいたら弟たちも喜ぶと思う」
(厚くん)
かつて一年だけ同じクラスになったことがる厚くん。あの頃は私もまだいじめられてはなかった。クラスでいつも一人でいた私にも、変に気を回すことなく、しかし優しく接してくれた。伸ばした前髪から覗く世界の中で、いつも彼のことだけがきらきら輝いて見えた。
「おいみょうじ、聞いてんのかよ!!!」
どん、と肩を押されてその拍子に転んでしまう。だが私は私をいじめるクラスメイトのことよりも、厚くんのことで頭がいっぱいだった。私の学校に来る理由といえば、唯一の趣味といえば、本を読んだり夜空の星を眺める以外には大好きな彼を遠目で眺めるくらいなのだ。
げしげしと足蹴にされる。なんとか目は守らなければ。厚くんを見れなくなったらどうしてくれよう。彼を見ている間だけ、私の人生はきらきらするのに。まるで夏の日差しを受けるプールの水のような輝きを持てるのに。
「あっ、チャイムだ!」
きーんこーんかーんこーん。と、聞きなれた変わり映えのない鐘の音が聴こえる。予鈴だ。
クラスメイトたちは舌打ちをしてから、それぞれ机から理科の教科書を持ち出して移動教室へ行ってしまった。そういえば次の時間はカエルの解剖だった。忘れてた。
一人、廊下の隅に残される。放り出されたままの本を持ち上げて、表紙についた埃を払ってやる。
「みょうじ、そんな難しい本読むんだな。みょうじは皆が知らないこと知ってるし、すげえなーってよく思うんだ」
そういえば、そんなことも言ってくれたな。
日々、思い出すのは厚くんのことばかりだ。
顔を上げて、窓の外の校庭を見る。遊んでいた子たちも各々の教室へ帰っていく中、何人かの男子たちの中に厚くんが混ざっているのが遠くからでもはっきりと分かる。汗をかいて、サッカーボール片手に楽し気に笑う彼の笑顔はまさしく太陽のそれだった。自分が決して近寄れない世界の人。窓一枚隔てているだけでも、自分と彼と言う人間の差がありありと分かってしまう。
きーんこーんかーんこーん。今度は始業のチャイムが鳴った。
だが私はそんなことは気にせず、彼が校庭を立ち去るまでずっと外を眺めていた。そっと唇を寄せた窓からは、夏の熱さが伝わってきた。
明日世界が壊れたら、
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