2018/04/16(Mon) 例えば


運命なんての例えばの後日。
デフォ名注意。


「椿お前いつになったら仕事辞めんだよ」
「またその話ですか?辞めないですよ」
「はぁ?辞めろっつっただろうが!!」

言われたけど私はそれを承諾したわけじゃない。
結婚しようと言われてお互いの両親に挨拶しに行って今は結婚に向かっての準備を進めている。

「いい加減にしろよ…!!」

籍を入れる事に抵抗があるわけではない…、いや抵抗はある。本当に本当に私でいいのかと今でも思っている。私が幸せにします!なんて豪語しておきながら私が迷っているんじゃ世話ないが仕方ない。無個性と言う事実が私を渋らせるんだから。

「かつ兄…」
「んだよ」

昔の名前で呼べば彼は少しだけ口調を和らげてくれる。これは一緒に暮らしてから気がついたことの1つだ。
そう多くは使えない手だが、使えば有効。諸刃の剣だ。

「本当にいいんだね?」
「テメェがくだらねぇ事で悩んでんのは知ってる」
「くだらない?!」

くだらないことでもないと思うんだが。
だって、仮に子供を授かったとする。私の遺伝子が入っている限りその後は無個性になる可能性が他の子に比べて高くなってしまう。そんなのは可哀想だ。

自分の過去を振り返って経験した無個性故の惨めさに、ぎゅっと胸が締め付けられる。
俯いた私の額に勝己さんの強烈なデコピンが入る。

頭蓋陥没したんじゃないかと錯覚するほどの威力があったデコピンに涙で視界が滲み額が熱を帯びてじんじんと痛む。

「な、にをっ!」
「くだんねぇ事考えてる暇があんなら仕事さっさと辞めちまえ」
「でも子供とか作れないよ?」
「俺の遺伝子ナメんな」

俺に似て強ぇ個性のガキを作ってやらァ!!と自信満々に私を見る勝己さんを見ると自然と笑みがこぼれる。

そうだね。貴方はそういう人だったね。
私の不安も劣等感も何もかも全部一纏めにしてどこかに追いやってしまう、素敵なヒーローだったね。

「ははっ、そうだね」
「…けどまァ性格くれぇは椿に似てもいいんじゃねぇか」
「勝己さん性格に問題あるの知ってたの?」
「ンだと椿てめぇ!!」

今にも両手を爆破させそうな勝己さんには似て欲しくないけど、でも大切な人を守れる勝己さんみたいな子に育って欲しいとは思う。

まだ先の遠い未来の話なのに私は今それを望んでいる。
勝己さんとだから描ける未来なんだと信じて歩んでいこう。

「てめぇは俺の帰りを家で大人しく待っとけ」
「…うん。勝己さんみたいには無理だけど美味しい夕ご飯作って待ってるね」
「っ!言質取ったかんな」

三白眼を更に大きく開いて驚いた顔をした勝己さんは口の端を上げて笑った。
その表情だけで胸が高鳴って仕方ない。

「椿…」
「…んっ」

ゆっくりと唇が重なり名残惜しそうに離れていく。勝己さんから移る熱が心地よくて癖になる。

「あんま俺を待たせんじゃねぇぞ」
「うん」

勝己さんには言わないが、渋っていただけで実は職場用の鞄の中には退職願が入っていて、後は渡すだけになっている。

この出会いは運命なんて言葉よりも必然と言う言葉の方がいい。私はそう思いたい。