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「私のカードの能力についてですが、私は52枚のカードを持っていてカード自体1枚1枚魔力を持ち生きています…先生が知りたいのは通形さんの個性を元に戻すカードがあるかないかって話ですよね?」
「そうだな」
「候補は2つあります」

1つは“消(イレイズ)”で通形さんの体に入ったエリちゃんの個性を消すことを。もう1つは“時(タイム)”で通形さんの時間をエリちゃんの個性を使用する前に戻す事。

「時間を戻す?」
「恐らくですけど、通形さんは個性のみを巻き戻されたんではないでしょうか」
「治崎は人を巻き戻す個性だと言っていたが、使い方によっては…って事か」

相澤先生の言葉頷くと先生は更に言葉を続けた。

「だか、どういったものかが確定しない限りは無闇にお前の力を借りるのも危ないな」

確かに適材適所のカードを使った方が私の魔力の消費的にも通形さんの身体的負担にも優しい。
けど、困っている人がいるなら私はその人を助けてあげたいと思う。

「もし、私が力になれるなら言ってください」
「…あぁ」

渋い表情をしたままの相澤先生の後ろからミッドナイト先生に声をかけられる。

「あら?轟くんはいないのね。貴方達はニコイチだと思ってたわ」
「ニコイチって…」

別々で行動する時くらいありますよ。と笑いながら言うとミッドナイト先生は首を傾げながら、そうかしら?と納得しないまま自分のデスクの席に着く。

「それじゃ、私は寮に行きます」
「悪かったな」
「いいえ」

職員室を出ると時間的問題で人通りも少なく、マンモス校の普段の雄英とはまた違う雰囲気が流れている。
私たちヒーロー科は他のクラスよりも1時間多く授業を受けているから基本的同じ学年なのに横の繋がりは薄い。

私は職員室の前の廊下に置いておいた学校鞄を左肩から下げて玄関に向かった。時折キュッキュッと廊下と運動靴が擦れる音が聞こえたり、女子生徒の笑い声が聞こえたりする。

放課後のゆったりとした時間だ。

階段を降りていると不意に後ろから誰かに腕を引かれた。突然の事に驚きつつ後ろを振り返ると見たことのない男子生徒がいて、彼は心做しか顔を赤らめている。

「あの…なんですか?」

困ったように笑い、首を傾げながらそう訊ねるも男子生徒は私の事を真っ直ぐに見つめて口を開かない。どうしたものか。と私の腕を掴むこの男子生徒を見上げることしか出来ない。
短く切られた髪に少しつり上がった大きめの目。全体的に勝気な印象を受ける。

と言うかこの人誰だろう?

お互いに見つめ合っていると、男子生徒が顔を俯かせ耳まで赤く染め振り絞るように声を出した。

「俺…、あんたの事ずっと気になってて…」
「えっ?」
「多分好きなんだと思う」
「えっ?!」

突然の告白に驚き固まっていると、男子生徒は私の腕を離して、私の顔を真っ直ぐに見つめてもう1度口を開く。

「俺普通科の近藤…言いたかったことそれだけだから」

近藤くんはそれだけ言うと踵を返して階段を駆け上がって行った。残された私はと言うと突然の衝撃に固まったままで、ゆっくりと今の言葉を飲み込んだ頃には頬に熱が集まっていた。

いつまでもここにいる訳にはいかないと、熱くなった頬を冷たい両手で冷やしながら寮に向かう。流石に寮に着く頃には頬も完全に冷えていて思考も幾らかは冷静だった。

「あれ?柚華ちゃん今帰り?」
「うん。相澤先生に呼ばれてて」
「そうなんだー」

寮の玄関を開けた先には共用スペースが広がっていて、私の帰りを気が付いてくれた三奈ちゃんが話してくれた。文化祭の出し物を決めているみたいで、私は一旦部屋で着替えてから話し合いに参加すると伝えて自室に向かった。

自室の扉が閉まる音が小さく聞こえる。制服を脱いで適当な部屋着を手に取りそれを着替える。そうしてやっと一息つける気がする。

なんだかなぁ。

告白をしてきた割に返事はいらないって感じだったけど。実際のところどうなんだろうか。でも改めて近藤くんを呼び出してお断りの返事をするのもはばかられる。だって今から貴方を傷つけに行きますって言っているようなものだ。

「うーん…」

告白された事なんて片手で数えても指が余るくらいしかない。そんな私に近藤くんの言動は難しすぎて困る。誰かに相談したいけど、こういう時誰がいいんだろうか。

焦凍くんは論外だし…というか焦凍くんに報告とかってした方がいいのかな?でもそれってなんだか私モテるんですって遠回しに自慢してるみたいで嫌じゃない?
どうしようか。と部屋の中で悶々と悩んでいるうちに時間は過ぎて、慌てて下の共用スペースに行くと出し物の話し合いは終わり、補習に行っていたデクくん達も戻ってきてる所だった。

「佐倉来んの遅ぇから先決めちまったぞ」
「ごめんね!何になったの?」
「生演奏ととダンスでパリピな時間をお届けだよ!響香ちゃんがバンドなの!」
「響香ちゃん楽器上手だしいいんじゃないかな!」
「それで私がダンスの講師やるのー!」

片手を上げながらアピールしてきた三奈ちゃんに向かって、楽しそう!と言うと三奈ちゃんは照れたように笑った。決まってからは動き出すものも早くて、皆明日から動き出せそうな雰囲気を出していた。

「柚華さん?」
「どうした?」
「なんかあったのか」

皆、やる気に溢れてるな。なんて眺めていると不意に焦凍くんに声をかけられた。心配してる表情に思わず苦笑いをしてしまった。

「なんでもないよ」
「そうか?」

なんでもなくはない。相澤先生から言われた通形さんの事もそうだし、近藤くんのことだってある。だけどそれらを今焦凍くんに言ったところで焦凍くんを困らせてしまうだけだ。
だから私はこう言うしかない。

「文化祭、楽しみだね」
「…そうだな」

焦凍くんは最後まで私の目を真っ直ぐに見つめていたと思う。

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