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文化祭での出し物が決まり私たちは響香ちゃんを中心に動き出そうとしている。

「色々決めないとねェ!」
「どういうのが喜ばれるだろうか!!」
「んん」

どんな風にしようかなんて話しながら寮に行き、共用スペースで響香ちゃん中心に話し始めることにした。文化祭本番まで残り1ヵ月だから何をやるにしても早急に決めて練習に時間をたっぷり当てたい。

「まずは楽曲だよね!」
「やっぱノれるやつっしょ!」
「じゃあなるべく皆が知ってる曲をやるべきじゃね?!」
「おどれるやつーー!!」

何人かが声を上げて希望を出すが、私は正直に音楽に疎いからどういったものがいいのかが分からない。よって話の流れを眺めることしか出来ない。

「となると4つ打ち系だよね。ニューレイブ系のクラブロック。ダンスミュージックだと本当はEDMで回した方がいいんだけど、皆は楽器やる気ないんだよね?ベースとかドラムやってた人いる?」

響香ちゃんの圧倒的な知識量の差に皆が固まり、ただただ呆然として無言の空間が流れた。響香ちゃんはその無言の空間を肯定と受け取りさらりと、だよね…と続ける。

「まずバンドの骨子ってドラムなんだけどさ、ウチはギターメインでドラムは正直まだ練習中なのね。初心者に教えながらウチも練習しなきゃだと1ヶ月じゃ正直キツい」

そうだよね、どうしようか。と考えていると上鳴くんが閃いたように声を出した。

「あ、つーかおまえ、昔音楽教室行かされてたっつってたじゃん」
「あ?」

上鳴くんの声に反応したのはまさかの爆豪くんで失礼ながらも、意外…。と思わず言葉を漏らしてしまった。勝手なイメージだけどピアノとか個性で爆破しそうだもん。
瀬呂くんが爆豪くんに挑発してドラムを打ってくれる気にはなったが、肝心のドラムが響香ちゃんの部屋にあるという事で、皆が一斉に私の顔を見る。

「え!あ、そういう事ね」
「頼んでもいい?」
「大丈夫だよ。響香ちゃんの部屋の中に入ってもいいかな?」
「それはいいけど…」

爆豪くんに早くしろと急かされ、私と響香ちゃんは部屋に向かい、“移(ムーブ)”のカードでドラムを広間に瞬間移動させた。するとiPhoneに上鳴くんから無事に届いたぜ。と連絡が入り、私たちは広間に戻り爆豪くんのドラム捌きを聞くことにした。バチを持った爆豪くんは意図も簡単に、寧ろこんなモンも出来ねぇのかと言わんばかりにドラムを叩く。

「か…完璧」

才能マン流石すぎる。と思わず拍手をする。両手と利き足を違うリズムでこうも動かせるものなのか。ドラムは爆豪くんで決定だね!なんて話していると爆豪くんは私たちに背を向けて部屋に戻ろうとし、それを響香ちゃんが呼び止める。

「爆豪お願い!つーかアンタがやってくれたら良いものになる」
「なるハズねェだろ!アレだろ?他の科のストレス発散みてーなお題目なんだろ。ストレスの原因がそんなもんやって自己満以外のなんだってんだ。ムカつく奴から素直に受け取るハズねェだろうが」

確かに正論だとは思う。ストレスの原因は確かに私たちだとは思うけど。

「だからってそんな言い方しなくても…」
「そういうの馴れ合いだっつってんだよ!」

私の声を遮って爆豪くんは正論を振りかざして、焦凍くんがそれを注意するが爆豪くんはそれでもなお低い声を出して唸る。

「ムカツクだろうが。俺たちだって好きで敵(ヴィラン)に転がされてんじゃねェ…!なンでこっちが顔色伺わなきゃなんねェ!!テメェらご機嫌取りのつもりならやめちまえ。殴るンだよ……!馴れ合いじゃなく殴り合い…!!やるならガチで…雄英全員音で殺るぞ!!!」

爆豪くんは親指を立てて自分の首を真横に親指で線を引く。その動作は首を切るもので、“おとでやる”って言うのは“音で殺る”という意味だと直ぐにわかった。

「相変わらず爆豪くんの理屈は飛んでるけど、やってくれるんだね!良かったね響香ちゃん!」
「ウチ頑張るよ」

それからというものの、百ちゃんがピアノを担当し、ギターは上鳴くんと常闇くんが担当し1番重要なヴォーカルは響香ちゃんが担当することになった。

「佐倉さんもイメージピアノ出来そうだけどな」
「尾白くん見くびってもらったら困るよ!私なんの楽器もできないよ!」
「意外だよ」
「そうかな?」

私、そんなに楽器出来るイメージ持たれてるのか…。でもあの侑子さんに育てられたら本当になんの楽器もできないし、なんなら触った事すらない。侑子さんはお筝を弾けるみたいだけどそれも習わないままだったから。

補習組みも帰ってきた事により、全員で話し合って納得のいく組み分けができた。1人1人持っている意見が違うから深夜1時まで時間を要し、飯田くんの目の隈が酷いことになってしまったが。

バンド隊に響香ちゃん、上鳴くん、常闇くん、爆豪くんと百ちゃん。
演出隊に口田くん、切島くん、瀬呂くん、青山くん、焦凍くん。
ダンス隊は残ったメンバー全員だ。

「俺のハーレムパート…ハーレムパート…!!」

ギターで手が届かなかった峰田くんを慰める為に作られた峰田くんのハーレムパートが余程楽しみなのか、峰田くんはそればっかり言っている。斯く言う私も体を動かす事の方が好きだからダンス隊楽しみだし、早く練習したくて堪らない。

演出隊の方にも手伝えたら手伝って欲しいと言われたから、そっちにも顔を出すが多分基本的にダンス隊メインでやるんだと思う。

「柚華ちゃん楽しそうね」
「うん!文化祭って1番好きな学校行事なんだよね」
「確かにわかるわ。体育祭も結局はヒーロー活動が関わってくるし」
「あそこで勝ち上がらないと、プロヒーローに声掛けてもらえないのキツイよな。やる気は上がるんだけどよ」

体育祭を参加してないから詳しい事は分からないけど、体育祭は聞いている限りじゃ将来を見据えた活動の一環ってものなんだろう。ヒーローになりたいなら優勝しろ。そんな重圧がかかるような行事は確かに楽しめない。

「文化祭楽しみだね!」
「えぇ!」
「おう!」
「皆で頑張ろうー!!」
「おー!!」

三奈ちゃんの掛け声に1Aの大半が拳を握り腕を高らかに上げて、同意と気合いの入り交じった声を出す。

本番まで1ヶ月。のんびりしている暇は何処にもない。

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