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朝、炎司さんに呼び止められて急遽雄英高校の体育祭を見に行くことになり、朝ごはんを食べた後お弁当作りに勤しむ事になった。なんでも今日雄英高校の体育祭なるものが開催されるらしく、TV中継もされる程その体育祭は注目されるらしい。かつてのオリンピックに代わる行事のようで日本中が大注目しているみたいで、活躍すればプロヒーローの目に入って卒業後に事務所にスカウトされるらしい。
焦凍くんの通っている学校はそんなにも凄いのかとどうでもいい事を考えながらお弁当におかずを詰める。

準備を整え学校に向けて出発をする。炎司さんとは校門前で落ち合うことになっている。なんでも少しだけ事務所に用事があるらしい。それでも息子の活躍を期待して時間を作っているのだから、期待しているよと素直に言えばいいのに言えないのがこの人らしい。
無事に校門前に着くと沢山の人がいたが、炎司さんはまだ来てないよで、人の邪魔にならない所で待つ事にした。

本当にTV中継もされるんだ。各局のスタッフとかアナウンサーの人が来てる。どれだけ凄いのだろう。

待つ事数分人だかりができていたが、モーゼの紅海よろしく大勢の人だかりが左右に道を開けていた。炎司さんことエンデヴァーさんがやって来たからだ。人が綺麗に分かれ、道が出来る様はもう人気No.2ヒーロー様々としか言えなかった。私この人に声をかけなきゃダメなんだろうか。すごく注目されるよね?と引け目を感じていると向こうから声をかけてくれた。

「待たせたな」
「いえ。お仕事は大丈夫ですか?」
「あぁ」

周りの人なんかポカーンとしていた。アナウンサーの方も何が起きてるのがわからないと言う顔をしていた。そんな周りの人なんかお構い無しに炎司さんは校門の中に入って行き手荷物検査やらの入場検査を受けていた。私もそれに続き中に入って行った。
中にはお祭りのように屋台が出ていてとても賑わっていた。あまりに広すぎて迷子になりそうになる。炎司さんが目立つ人でよかった。どこに行ってもモーゼの紅海の如く人が避けていき、道が出来る。圧巻だ。

1年ステージに着くとプレゼント・マイクが1年生のクラス紹介をしていた。1学年11クラスもあるのか。とんだマンモス校だ。この体育祭以降に私もこの学校に編入するのかと思うと気後れしてしまう。炎司さんは私のそんな気持ちに気がついたのか顔を顰めながら話しかけてきた。

「お前は焦凍の伴侶になる相手だ。今からそんな気構えでどうする」
「……伴侶…ですか」

焦凍くんが将来本当に好きな人が出来きた時の事を考えると素直に頷けない。私の事はさておき、焦凍くんの将来は焦凍くんだけのものだ。父親である炎司さんが決めていいことではない。この事については話し合わなければならない。たとえ私があの家に居られなくなるとしてもだ。

「まず始めの第一種目は障害物競走!個性使用有りの残虐ファイトよ!だけどコースから出たらアウトになるわよ。さぁ皆位置につきまくりなさい!……スタート!」

個性の使用ありの障害物競走。コースから出なきゃいいって言っていたけど、個性で相手をコース外に追いやる事も出来るってわけか。だから残虐ファイトね。

「さぁて!ミイラマン!この競技の見どころは?!」
「今だよ」

実況の2人の声に反応して始まったばかりの障害物競走スタートラインを見た。肉眼では見えないが、スクリーンに映っている映像だと、狭い通路を大勢の生徒が我先にと他の生徒を押し合いながら前に進もうとしていた。

なるほど。これが最初の篩いって事ね。

ミイラマンと呼ばれた男の人の言葉に納得していると一番最初に見慣れたツートンカラーの彼が出てきた。彼の右足が地面に着く度に凍らされている。そしてそれは地面だけではないようで、あの狭い通路内にいる人達の足元を凍らせて妨害までしたようだった。それでも何十人という数の生徒が彼の妨害を回避して通路の中から飛び出してきた。中には手から何かを爆破させて空中を飛びながら移動している生徒もいた。

あの子凄い形相で焦凍くんの事追いかけて行ったけど大丈夫かな。

と言うか、焦凍くんの個性って右で凍らす事が出来るのか。そして、炎司さんの発言と焦凍くん自身の発言からして炎司さんの炎の個性も受け継いでいる。それが左側なんだろう。半燃半凍か。

足元が滑りやすい中、自分の個性や元の身体能力をフルに活用して回避した生徒が前に進んでいく中、1人の小さい男の子が目に留まった。あの子小学生じゃないんだよね?
その子は自分の頭に生えているのボールみたいだ物を地面に投げてはその上に器用に降りてまた跳ねて次のボールへと渡っていった。凍った地面に張りついているなんて、なんて粘着力。後続者の妨害にもなっているし、自身は張り付かないのだから簡単に焦凍くんに近づくことが出来る。一石二鳥だ。

小さな彼を感心していると焦凍くんまであと少しというところで鉄の塊に当たってどこかに吹っ飛んでしまった。

大丈夫なんだろうか。

「まずは第一関門!ロボインフェルノ!」

巨大なロボットが所狭しと生徒達に向かって進んでくる。ほとんどの生徒が二の足を踏む中焦凍くんは1人立ち向かっていき左手から氷を出してロボットの不安定な状態の時をめがけて凍らさた。一瞬こちらを見たような気がしたけど気のせいだろうか。ちらりと横目で炎司さんを見ると普段と変わらない様な顔で焦凍くんを見ていた。

ロボインフェルノをどう破壊していくか、回避していくのか見ていると本当に様々な個性がこの世界にはあるのだな、と思わざるを得ない。電気を使う子、お腹から黒い影を出している子、体から大砲を出してきた子。その中で以前会った事のある、緑谷くんを見つけた。彼は未だ個性を出していない。どうしてだろう。

そんな事を考えていると先頭集団が継の関門に到着したようだ。

「おいおい!第一関門チョロいってよ!それならこれはどうさ!!落ちたらアウト!それが嫌なら這いずりな!ザ・フォール!!」

命綱なしの綱渡りだ。落ちたらアウトって言うか下手したら死んでしまう。焦凍くんはどう切り抜けて行くのだろうと見ていると、ロープを凍らせ持ち前のバランス感覚で滑るように渡っていた。怖くないのだろうか。
そして、第三関門まで来て、足を止めた。

「早くも最終関門!果たしてその実態は、一面地雷原!!よく見りゃどこにあるかわかる仕様になってんぞ!目と足を酷使しろ!因みに地雷は競技用だから威力は大したことないが音と見た目は派手だから失禁必須だぜ!!」
「人によるだろ」

なるほど、地雷を踏んだらその分ロスするが避けて歩いても遅くなり後続者に追い付かれるかもしれない。焦凍くんの場合歩く所だけ凍らせれば地雷を踏まずに済むけど後続者に道を作ってしまうことになる。後続者は先頭に追いつけるかもしれないという期待と興奮で、先頭は逆に追いつかれるかもしれないという焦りで余計に地雷を踏みやすくなる。踏まないためには常に冷静に何処にあるかを判断しなくてはいけない。目と足だけではなく神経まで酷使しなくてはならないようだ。
焦凍くんがトップをキープしながら前に進んでいると後ろから猛スピードで手から何かを爆破させ空中を飛びながら移動してくる男の子がいた。障害物競走の最初の方に怖い顔して爆破で移動していた人だ。スロースターターなのか終盤で追いつき、遂には焦凍くんに直接攻撃してきた。2人はそのままお互い譲らず1位を前に進みながら争っている。

怪我とか大丈夫なのかな?

本人達からすると要らぬ心配なんだろうが、見てる私としては思わず心配してみてしまう。すると今度は後方で大爆発が起こり、煙の中から爆風に乗って何かが飛び出した。よく目を凝らしてみるとロボインフェルノの鋼板に乗っている緑谷くんで彼はそのまま1位を争っている2人を越えて先頭に躍り出た。

周りはその急な展開に白熱している。

2人は争うのをやめて緑谷くんを追いかけ、追い越したと思ったら緑谷くんが手に持っていた鋼板で地雷を叩き爆発させて2人の進路を妨害て、自身は爆風でさらに前に出、そのまま走り出した。2人も負けじと走るが地雷でロスした分はカバーできずに、緑谷くんがそのまま1番にスタジアムに戻ってきた。

「焦凍の奴めしくじりおって」
「でも、2位ですから凄いですよ」

炎司さんはフンと鼻を鳴らすと焦凍くんを目で追っていた。

次々と生徒がスタジアムに帰ってきて最後の生徒が帰ってくると1位から順位が発表された。上位42名は次の予選を行うらしい。プレゼント・マイクさんが上位何名通過するか公表してないから安心せずに突き進め。って言ってたなあ。と思い返していると次の競技の発表が行われた。

「早速次の競技に行くよ!次はこれ!騎馬戦!」

進行が早すぎてついていくのに精一杯だ。
最下位から5ポイントずつ点が割り振られ、2〜4人で騎馬を作り、それぞれの持ちポイントを合計したものがチームの持ちポイントになる。持ちポイントを書いた鉢巻を首から上に巻き、普通の騎馬戦のように取り合うようだ。ただし違うのは鉢巻が無くなっても失格にはならない事。常に一定数がフィールド内にいるということ。悪質な崩し目的は一発退場らしいので誰もしないだろう。

「そして!1位のポイントは1000万点!」

つまり1位である緑谷くんから鉢巻を奪えば確実に1番になれる。そのことを知った生徒は目の色を変え一斉に緑谷くんを見た。

「そう。上位の人ほど狙われる下克上バトルよ!」

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