熱い男同士の腕相撲は赤い髪の子の勝利で終わり、昨日の敵は今日の友みたいに、2人はこれまた熱い握手を交わしていた。
その後第2回戦第1試合が始まった。
「今大会両者トップクラスの成績!ヒーロー科緑谷!VSヒーロー科轟!正に今両雄並び立たず!スタート!!」
プレゼント・マイクさんが試合開始の合図をすると、すぐに焦凍くんが右足で氷を出した。その氷は地面を伝いながら緑谷くんを襲う。緑谷くんも負けじと、スマッシュ!と叫びながらデコピンの要領で襲いかかる氷を砕いた。緑谷くんの身長を軽く超える氷を指1本の力で粉砕させ、更には風圧が焦凍くん襲う。焦凍くんは背面に氷で出来た盾のお陰で場外に出ることはなかったが、緑谷くんの作り出した風は焦凍くんの冷気と合わさり、観客席にいる人達までかなりの風速で届いた。
何これ、風だけでこんなにも寒いの?…と言うか待って、緑谷くんの指がっ!
「あれって、自損して打ち消ししてるってことなの?」
痛々しい程に変色してしまっている指に顔を顰める。
焦凍くんはそんな緑谷くんの自尊覚悟の打ち消しを予想していたのか、続け様にもう1度彼に攻撃を仕掛けるがこれも緑谷くんが指を自損しながら打ち消した。彼が打ち消す度に風が観客席まで届く。
個性とはここまで自身の身を削らなくてはいけないものなんだろうか。いや、そんな事はないはずだ。そうだったら誰も個性なんか使わない筈だ。緑谷くんの場合は強大なパワーに体が、筋肉が追いついていってないだけかも知れない。
個性には使用制限とか無いものなの?
「轟!緑谷のパワーに怯むことなく近接!!」
焦凍くんが自身で作った氷の上を駆け上がり、緑谷くんに近づくと緑谷くんは包帯が巻いてある指で氷を粉砕した。が、焦凍くんはその動きが読めていたようで、上に飛び上がり衝撃を回避すると、そのまま右手で上から緑谷くんに殴りかかった。これをジャンプして躱した緑谷くんだったが、焦凍くんの右手でが地面についているためそのまま地面を伝って緑谷くんの左足を捉えた。
緑谷くんは包帯をしている手で握り拳を作り、氷を粉砕した。今日1番の風が私たちを襲う。
焦凍くんは後に氷の盾を作っていたようで場外に出なかったが、観客は緑谷くんのパワーに圧倒され、動揺している。
「もう、そこらのプロ以上だよアレ」
「流石No.2ヒーローの息子って感じだ…」
風で舞い上がった砂塵が晴れ、私の目に入ったのは両手が痛々しい色に変色してしまっている緑谷くんだった。見てるこっちが痛くなるその姿に口に手をあててしまう。
焦凍くんは大丈夫なのかと目を向けると、右側を中心に体に霜が付いた状態でどこかを見ていた。目線の先は恐らく炎司さん何だろうと簡単に推測できてしまう。
そして焦凍くんは無表情のままこの試合で1番威力のある大きな氷を緑谷くんにぶつけた。
とどめを刺すつもりなんだ。
これでこの試合が終わると、思った瞬間緑谷くんが壊れた指で氷を破壊した。
「全力でかかってこい!!」
ボロボロになっても、痛みで体が震えてもそれでも、勝つという強い意志が死ぬことはなかった。恰好いいとそう思った。
「焦凍くんの動きが鈍い…?」
緑谷くんを睨みんだまま走り出した焦凍くんの動きが最初の頃よりも鈍くなっている。それは動きだけではなく作り出される氷も威力もスピードも先程よりは落ちていた。
体に霜がおりてからってことは、焦凍くんの体が寒さに耐えられなくなって、動きが鈍くなっているって事?左の炎を使えば解消できる問題何だろうけど、本人は使う気がないみたいだし。
鈍い動きではあるが緑谷くんに接近し、緑谷くんの体を凍らせようとしたのか、それよりも先に緑谷くんの重たい一撃が焦凍くんのお腹に入った。その勢いで焦凍くんは吹っ飛ばされて、緑谷くんは自損した痛みで叫んだ。
見ていられない。緑谷くんの手がもう……。
アドレナリンで痛みを思ったりよりも感じてはいないと思う。だけど自分から激痛に飛び込んでいくなんて、どうかしてるとしか思えない。
「恰好いいヒーローになりたいんだ!!」
そう叫んだ緑谷くんの顔は夢を追い続けている人の顔だった。やっぱり違う。あの時焦凍くんに将来の夢を聞いた時の彼の顔とは全然違う。
「焦凍くん…」
焦凍くんは緑谷くんに気圧されたのか緑谷くんに攻められ続けている。痛みと寒さで体が震えながらも立とうとする焦凍くんに緑谷くんが叫んだ。
「君の、力じゃないか!!」
そう言われた焦凍くんは泣きそうな顔をしていた。どうしたらいいのか、何が正解なのかわからない。そんな顔をしていた。
「こ、これは!」
焦凍くんは左側から膨大な炎を吹き出していた。
「焦凍くんの個性は焦凍くんだけのものなんだよ」
両手を胸の上でぎゅうっと握る。
私の声は彼には届かない。彼らが喋っている事も大声じゃないと聞こえない。そんな距離だ。だけど言葉に出さずにはいられない。
「よかった。良かったね焦凍くん!……でも」
でも、妬けちゃうな。私の言葉じゃなくて、緑谷くんの言葉が届いたなんて。悔しいな。私が彼を救ってあげたかったな。
だけど、炎の中で泣きそうな顔で笑う彼を見ると嫉妬よりも感謝の念の方が強くなってくる。
「…ありがとう。緑谷くん」
溢れ出る涙を指でぬぐいながら2人を見ていると炎司さんの雄叫びに似た叫び声が聞こえた。
「焦凍!!」
「あん?」
「やっと俺を受け入れたか!そうだ。いいぞ!ここからがお前の始まり。俺の血を持って俺を越えていき、俺の野望をお前が果たせ!」
「エンデヴァーさん急に激励か…?親バカなのね」
きっと炎司さんは焦凍くんが炎を使った喜びであんなにも前に出てきたのだろう。本当に親バカなんだから。
だけどそんな炎司さんの声援も焦凍くんの耳には入っていなかった。
一滴の涙が頬を伝っていた。
さっきまでとは違う生き生きとした表情に自然と顔が綻びる。だけど試合は終わったわけではない。焦凍くんは右足で威力のある大きな氷を緑谷くんに向ける。左の炎を纏っているので先程とは違い、スピードも威力も大きさも桁違いなものだ。緑谷くんは足に力を込め、高く跳ね上がり襲いかかる巨大氷を避けるとそのまま焦凍くんに突っ込んでいく。焦凍くんは視界の邪魔になる氷を左の炎で溶かすと、左手を前に翳した。
「…凄い…これが焦凍くんの本来の力」
そんな事もつかの間に緑谷くんと焦凍くんの間にはコンクリートの壁が何処からともなく出来ていた。が、緑谷くんの渾身の攻撃と焦凍くんの炎で破壊されてしまい、コンクリートがあっけなく粉砕され、爆風に乗って勢いよく飛び散った。
腕で目を守るようにして砂塵の中を見ようとすると焦凍くんの大声がクリアに耳に入った。
「柚華!!」
弾かれるように前を向くと運悪く粉砕されなかった大きなコンクリートの破片が私の方に飛んできていた。呪文なんか唱えられる時間はない。
「“盾”(シールド)!!」
半透明な盾のカードを発動させコンクリート破片を防いだ。
「お、重たい」
暴風が破片を押していたがそれも止み、破片はそのまましたに落下した。
バグバクと大きな音を立てて小刻みに動く心臓を落ち着かせようと胸に手を置き深呼吸する。
今のは本当に怖かった。シールドが間に合わなかったら今頃頭砕けてたかもしれない。
「何、今の…お前のクラスなんなの…」
「さんざん冷やされた空気が瞬間的に熱され膨張したんだ」
「それでこの爆風かよ。どんだけ高熱だよ!たっくなんも見えねぇ。オイコレ!勝負はどうなってんだ?!」
砂塵が徐々にはれてステージ内を見ることが出来た。
「み、緑谷くん…場外!轟くん3回戦進出!」
会場からは歓声が上がった。
ステージには自身の炎でジャージが半分焼けてなくなり肩で息をする焦凍くんが立っていた。その顔はなんだか驚いた顔のような、迷子になった事を自覚してしまった子供のような顔をしていた。
あれ?そう言えば…。
「私焦凍くんに呼び捨てで呼ばれてなかった?」
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