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焦凍くんに呼び捨てにされた筈とステージにいる焦凍くんを見るが彼は緑谷くんに背を向けステージから降りようとしていた。彼になんて声を掛けたらいいのか分からず、私はしばらく考えたが結構この場所に立ち止まる事にした。

なんて声をかけたらいいの?おめでとう!それとも良かったね!個性を受け入れられたの?

違うどれもしっくりこない。きっと彼は今困惑してると思う。だって、今まで否定してきた左の炎を使ったんだから。これから自分の個性だと受け入れて使っていくのかどうか。しっかり自分で考えて導き出さないと完全に自分のものにならない。だからここは、私が彼のもとに行って何かを言うことは出来ない。そう思ったんだ。

彼が私に本当の夢を語ってくれるその時に、ありがとう。と笑って言おう。

ステージ大損害の為暫くの間休憩2回戦目第2試合が始まったが飯田くんが塩崎さんを場外に押し出してものの一瞬で終わってしまった。第3試合も似たようなもので常闇くんが芦戸さんをダークシャドウで場外に追い出した。第4回戦目の爆豪くんと切島くんの試合は前の2試合と違い、試合と言われるようなものだった。

「次は3回戦目…焦凍くん…」

小休憩をはさみ、3回戦目第1試合の焦凍くんと飯田くんの試合が始まった。

「準決勝第1試合!お互いヒーロー家出身のエリート対決だ!ヒーロー科飯田天哉!VSヒーロー科轟焦凍!スタート!」

試合開始の合図と共に焦凍くんが氷で飯田くんに攻撃を仕掛けたが、飯田くんはそれを走って避け、焦凍くんに近づく。焦凍くんはそれを氷で挟み撃ちにする。
飯田くんって人氷に挟まれたけどどうするんだろう。

「轟!一気に決めに来たー!!」

焦凍くんは氷で挟まれた飯田くんに向かって氷を放つが飯田くんは立ち幅跳びの要領で氷を避け足に付いているマフラーから火を出し、勢いよく焦凍くんに蹴りを入れる。だけど焦凍くんはそれを避けしゃがみ込むが飯田くんが蹴りを追撃して入れる。これは焦凍くんに直撃して焦凍くんは地面に平伏す。

あれは重たいのが入ってしまった。

焦凍くんは四つ這いの状態で飯田くんに向かって右手から氷を出すが飯田くんはこれも避け、焦凍くんのジャージを掴みそのまま場外に向かって走る。

場外に投げ飛ばす算段なのだろう。だけど途中で飯田くんの動きが止まってしまった。

「マフラーに氷が…」

マフラーに氷が詰まって加速できなくなってしまっていた。焦凍くんはその隙に飯田くんの腕を右手で掴み飯田くん自体を凍らせた。

「轟くん勝利!」
「轟炎を見せずに決勝に駒を進めた!」

左の炎を使わなかったのはまだ迷っているからだろう。焦凍くんは自身の顔が、存在がお母さんを苦しめたと言っていた。だから使う事を受け入れられないのだろう。自分だけが過去から解放されていいのか、何を清算していいのかわかないのだろう。

確かに過去は変えられない。でも未来は変えられる。

当たり前の事でも今の焦凍くんにはそれすらもわからないのだろう。それだけ彼の過去は深く彼の心を蝕んでいる。過去に気持ちを引っ張られて前を向けれない。

「頑張って、頑張って焦凍くん」

小さくそっと彼にエールを送った。


3回戦の第2試合は爆豪くんと常闇くんの試合だった。常闇くんのダークシャドウが無敵だと思われていたが、爆豪くんの個性と相性が悪かったようで、爆豪くんの猛烈な爆破ラッシュに常闇くんは手も足の出せなかったようで自ら降参を申し出ていた。

「ダークシャドウの弱点は明かり、又は光なのかも知れない」

どちらにしろ今回は相性が悪かった。今迄個性に頼りすぎていた所為かも知れないが。


そして最終決戦の時間が来た。

「雄英高体育祭もラストバトル!1年の挑戦がこの一戦で決まる!!所謂決勝戦!ヒーロー科轟焦凍!VS爆豪勝己!今スタート!!」

開始合図と共に動き出すのは好戦的な爆豪くんかと思ったが焦凍くんの方が先に動き、地面に手を着き、足と手から氷を出し大量の氷を爆豪くんに向かって出す。焦凍くんの初戦の頃の規模でないにしろ、巨大すぎる氷が爆豪くんを襲う。

「轟いきなりかました!爆豪との接戦を嫌がったか!?早速優勝者決定か!」

規模が初戦よりは小さいという事は相手を警戒して次の事を考えたって事だ。その証拠に焦凍くんは前を睨んでいる。
爆発音と何かが壊れる音が定期的に聞こえる。そして音がどんどん大きくなる。1番大きな音がしたと思ったら巨大氷に穴が開きそこから爆豪くんが出てきた。爆破でモグラのように穴を開けながら前に掘り進んできたようだ。

「強え個性故に攻め方が大雑把だ!」

そう叫んだ爆豪くんは両手を爆破させ一気に焦凍くんに詰め寄る。焦凍くんも次の攻撃をしようと爆豪くんに駆けだし、右手を前に出したが、爆豪くんが爆破で自身の軌道を変え、焦凍くんの右側を避け、肩と髪を掴み投げ飛ばす。

「なめてんのか?!バーカ!」

投げ飛ばされた焦凍くんは氷の壁を作り出し場外アウトを阻止した。

「氷壁で場外アウトを回避!楽しもう!」

円を描くように氷壁に乗ったまま爆豪くんに近寄るが、爆豪くんが先に焦凍くんに近づき彼の右側の腕近くで爆破させる。焦凍くんは伸びてきた手を右側で掴むと観客席から炎司さんの声が響いた。

「左を使え!使え焦凍!」

きっと反応したのは無意識だったのだろう。焦凍くんは咄嗟に掴んだ爆豪くんの腕を投げ飛ばした。

「っざけんなよ…俺じゃ力不足かよ」
「左側を態々掴んだり、爆破のタイミングだったり戦う度にセンスが光っていくなあいつは。轟も動きはいいんだが攻撃が単純だ。緑谷戦以降どこか調子が崩れてんな」

確かに爆豪くんの動きはすごい。戦闘センスが人並外れて優れている。きっと色んな人の戦いを研究してものにしているのだろう。それに比べ今の焦凍くんは個性について、下手したら自身の考えや存在が分らなくなってしまっているのかも知れない。そんな調子の中で戦うのは彼にとって苦でしかないのであろう。これが緑谷くんと戦う前ならいい勝負ができるかもしれないが…爆豪くんはお気に召さないだろう。

「てめえ!こけにすんのも大概にしろよ!ぶっ殺すぞ!俺が取んのは完膚なくまでの1位なんだよ!舐めプのクソカスに勝っても取れねえんだよ!デクより上にいかねえと意味ねえんだよ!勝つつもりもねえんなら俺の前に立つな!なんで此処に立ってんだよ!クソがぁ!!」

爆豪くんの叫びは正論だった。その正論は悲痛の叫びのように私には聞こえた。爆豪くんは完璧主義者なんだろう。だから焦凍くんの左を使わないその姿勢に腹が立つ。

「轟くん!負けるな!頑張れ!!」

緑谷くんの声援に俯いていた焦凍くんの顔が弾かれたように前を向く。泣きそうな目と私の目が合った。

「勝って!焦凍くん!!」

私の叫びは届いたのだろうか。私が何か言う前に焦凍くんは左から炎を出し、爆豪くんは爆破で飛び、回転させながら特大火力の爆破を焦凍くんにぶつけた。

その瞬間、焦凍くんの作った氷壁もろとも破壊した。煙幕が晴れたときに私の目に最初に映ったものは破壊された氷の上に気絶しながら倒れている焦凍くんだった。

炎を消して無抵抗で爆豪くんの攻撃を受け入れたのだろう。そんな彼を爆豪くんが受け入れるわけがなく倒れている焦凍くんに詰め寄り胸元を掴み叫んでいたが、急に意識がなくなったように横たわった。

「轟くん場外!よって爆豪くんの勝ち!」
「以上で全ての競技が終了!今年度雄英体育祭の1年の優勝は爆豪勝己!」


会場は盛大な歓声で溢れかえっていた。

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