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ご飯も食べ終わり、私達は前にも行った事のあるショッピングモールを目指して歩き出した。その道中で私は焦凍くんが何を話したかったのか聞いた。

「そう言えばお話があるって言ってませんでしたか?」
「話というか聞きたいことなんだが、お前の魔法について」

何か気になった事でもあるのだろうか?
私が何ですか?と聞くと焦凍くんは言葉を選びながら質問した。

「昨日柚華さんはかなり体力を消耗していたが試験でなんかあったのか?」
「昨日は迷惑をかけてすみません。寝不足と頭の疲労に魔力の疲労が重なりまして…」

昨日は本当に迷惑をかけてしまった。ショッピングモールに着いたら焦凍くんにお詫びの何かを買おう。でも焦凍くん、物欲あるのかな?なさそうだなー。

「カードの枚数によって疲労度合いが変わるのか?」
「枚数もありますが、種類によってですかね」
「種類?」

少しだけ難しい話ですが、と前置きを置いてカードの成り立ちと種類とについて話した。私と同じ存在の女の人が2人違う次元、違う世界にいる事は話を難しくさせるだけなので今回は、省く事にした。

「先ずはカードを作った人ですが、私の世界でこの世で最も魔力のある人って言われた男性が作ったものなんです。名はクロウ・リード」
「その人は今も生きてるのか?」
「いえ。故人です」

私が産まれる遥か前に亡くなってますよ。と伝えると焦凍くんは少し驚いた顔をした。

「どうやって受け継いだんだ?」
「夢の中で出会ったんです。強い魔力を持った人は夢を渡る事も、予知夢を見ることも出来るんです。クロウさんは夢でこの本を私に渡して少しずつ使い方も教えてくれました」
「…夢で…」

信じられないのも無理はないよね。素面で言ってる人に会ったら夢でも見たの?と聞くのが当たり前だ。だけど焦凍くんはそんなことは言わずに、それからどうなったんだ。と聞いてきた。
人を馬鹿にしない。優しい人だと心からそう思える人だ。

「クロウさんは夢の中で沢山の事を教えてくれました。その内の1つがこのカードの種類についてです。カードは全体として2つの属性に別れています」
「属性っていうのはどういう意味なんだ?」
「選定者ケロベロスの太陽の属性、審判者月(ユエ)の月の属性、2人の守護者の属性に分けられてるんです。そして更にややこしい事にカード達は色んな区分されているんですよね」
「選定者とか審判者ってなんだ?」

そこは後で話します。と話を保留にしてカードの話を進めた。

「先ずは守護者の第一支配下カードの“光(ライト)”と“闇(ダーク)”更に四大元素カードの“火(ファイアリー)”、“水(ウォーティー)”、“風(ウィンディー)”、“地(アーシー)”のこの6枚のカードにそれぞれ属性のカード達がいるんです」
「この6枚は他のカードと違って魔力の消費が激しいのか?」
「正解です。そう何度も使うと流石に疲れてしまいます。一応魔力は使えば使う程大きくなっていくんですが、今の所は何度も使えないのが現状です」

頭の回転が早くて羨ましい。私がもしこんな話をされたらついていくのでやっとだ。

「守護者話に戻しますね」
「あぁ」
「本来であれば、このカードは選定者ケロベロスによって選ばれ、審判者月(ユエ)によって審判され無事合格出来たらカード達の主になるというシステムなんですが、私の場合は本人から直接もらっているのでやってないんですよね」
「もし、不合格だったらどうなるんだ?」
「…この世の災いが起こるとは聞いてますが、地球が爆発とかそういったものではないですよ」

クロウさんは災いが何かを教えてくれた。それは、カードに関わった人の1番好きって気持ちがなくなる。愛しい人への恋情、愛情含め、期待も胸の高鳴りも切なさも、何よりその人との記憶がなくなる。それが災いだと。

「両親は魔力の事知ってるのか?」
「あれ?冬美さんから聞いてないんですか?」
「何がだ?」

焦凍くんの質問に思わず質問し返してしまった。彼の様子を見る限り本当に冬美さんからは聞いてないようで少し吃驚した。

「私の両親は幼い頃に死んでます。それからは侑子さんって言う人にお世話になってます」
「悪い。嫌な事聞いたな」

焦凍くんは少しだけ悲しそうな顔をした。私への同情とかではなく自身の気持ちに何かあったのだろうか。表情は他の人に比べて未だに乏しいが前よりはずっとわかり易くなってきてる。焦凍くんのお母さんに会いに行ってからだとは思うが、母は偉大なのだと思わずにいられない。昨日今日でこんなにも違うのだから。

「話を戻しますね。今まで話したのがクロウカードについでです」
「…柚華さんが使ってるカードじゃないのか?」
「私が使ってるのはこれを元にした、私の属性のカードです」
「個人個人で属性があるのか?」

周りが騒がしくなった事でショッピングモールに着いたのだとわかった。いつの間にか話に夢中になっていて気が付かなかった。
前回来た時の記憶が何となくあるので案内板は見ないでそのまま目的地まで話しながら歩き続けた。

「はい。クロウさんは闇属性、私は光属性でした」
「何が変わるんだ?」
「うーん。どうと言われると難しいのですが、イメージは1だったものを10にした。みたいな感じでしょうか?」

焦凍くんには伝わらなかったようで訝しげに私を見ていた。

説明下手くそでごめんなさい。

「今までは借り物の魔力に借り物のカードでやってたんですが、それだと、旅をしてる時に倒せない敵がいて、カード全てを私の属性に作り替えたって感じですかね」
「…旅をしてたのか?」
「旅というか、侑子さんが可愛い子には旅をさせよって言って、無理矢理違う次元にいる知り合いの元に送ったりしてたんですよね。お使いがてら」

懐かしいな。と遠くに思いを馳せていると焦凍くんはご尤もな質問をした。

「侑子さんって育ててくれた人だったよな。魔力あったのか?」
「それはもう強大な。東洋の魔女って通り名まであるくらいですよ!…ってイメージつかないですよね、えっと、人の運命を変えちゃうくらいの強大な魔力の持ち主ですかね」
「運命…」

さらに混乱させてしまったようで、要らぬ情報を与えてしまったと後悔する。
うーん。取り敢えず凄い人なんだよって事が伝わればいいのだが伝わっただろうか。

「違う次元ってなんだ?」
「違う世界、違う次元。私たちが知らないだけでこの世の全ては際限なく留まることを知らずに広がり続けています…って、言葉にするのは難しいですね」

私は少し考え込んでから言葉を発した。

「違う世界は並行世界で、未来や過去に行くのが違う次元ではないでしょうか?違うかもしれませんが、私も深く考えた事がないのでなんとも言えません」
「柚華さんは違う世界や次元に自分の意思で行けないのか?」
「…行けないですよ。魔方陣を知りませんから」

嘘だ。本当は行ける。じゃないと小狼くん達の所に行った時に帰って来れない。でも行けるなんて言ったらじゃあ何故帰らないんだ?って聞かれかねない。いや、確実に聞かれる。
でも正直なんで来たかがわからないから帰れない。それに、焦凍くんがどんなヒーローになるのかを見届けたいという気持ちもある。

どうか私の嘘に気が付かないで。

「他に聞きたいことはありますか?」
「俺の所まで案内してくれる鳥や蝶はカードなのか?」
「違いますよ。あれは侑子さんから教わった魔法ですね」
「カード以外にも魔法が使えるのか?」

その魔法しか知らないですが。と伝えると焦凍くんは私に謝った。

「悪かったな不躾に色々聞いて」
「いいえ。嬉しかったですから…お店着きましたね」

嬉しかったのは本当だ。きっと昨日の私を心配して魔力の事を知ろうと思ったのだろう。単純に魔力の事が気になったからでも、私について聞いてくれたのだから嬉しい。

それから幾つかのお店で買い物を終え、制服を取りに行く為に学校に向かった。流石に教科書は持って帰れないので今日は制服だけを取りに行きたいと電話したら学校の人が快諾してくれた。

「休日の学校って少しだけ寂しいですよね」
「そうか?あんまり考えた事がない」

そもそも休日に学校なんて来ないですもんね。なんて会話をしていると学校についた。

明日からここに通うわけだけど、学校ではどう焦凍くんと接したらいいのだろうか。呼び方とか変えるべき?家では皆轟さんだから分かるように皆さん名前呼びさせてもらってるけど、学校だと別に轟くんでも言い訳だし、あれ?同じ家に住んでる事も伏せた方がいいのかな?

「どうした、行かないのか?」
「へ?すみません」

考えに夢中で足が止まっていたみたいで、焦凍くんが声をかけてくれなきゃ気が付かなかった。小走りで駆け寄り職員室に向かって歩き出す。

「この高校って親切なんですね。教科書だけじゃなくて制服まで用意してくれるなんて」
「俺の時は店まで買いに行ったぞ」
「……え?」

そしたらなんで私の制服を用意してくれたんだろう?よく考えたらサイズとかどうやって知ったんだろう?

「なんで私のは用意できたんだろう?」
「お前の身長体重その他がネットに載ってたからな。それを参考にさせてもらった」
「っひ!」

真後ろから男性の声がして小さな悲鳴を上げてしまった。私が後ろを振り返るよりも先に焦凍くんが私の前に庇うように立っていた、が相澤先生とわかりため息を吐いていた。

「いきなり話しかけないでくださいよ。心臓に悪い」
「ヒーロー志望なんだからこれくらいの気配を察知出来るようになれよ」

相澤先生に言い返されて焦凍くんが黙っているうちに私から話しかけた。

「なんで先生がここに?」
「偶然だ」
「そ、そうなんですか」

あれ?さっき先生はネットに私の個人情報が載ってるって言ってなかったっけ?
って事は検索したら私の体重身長とかが出てくるってことなの?

「先生今私の体重身長がネットに載ってるって言ってましたよね?」
「あぁ。見るか?」

そう言って先生は自身の黒い端末を弄り、私たちにとある画面を見せてくれた。そこには私のプロフィールや生い立ち、カードの事なんかも書かれていた。

「意外と細かく書いてあるな」
「見ないでくださいっ!」

同じく画面を覗き込んだ焦凍くんの目を画面が見えないように手で隠す。焦凍くんは抵抗せずに大人しくしてくれた。

「けどもうほとんど見ちまったぞ」

読むスピードが速すぎる。

目を隠しても無駄だとわかり、大人しく手をおろした。すると相澤先生が怠そうな顔で職員室に行くぞ。と声をかけた。

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