職員室で制服をもらい家に帰った。
いつも通りにご飯を作り皆で食卓を囲み各々が食事を終えると炎司さんに呼び止められた。
「柚華話がある」
「なんですか?」
焦凍くんは無言で炎司さんを見ていた。その場から動かなかったので話は聞くつもりなのだろう。
「柚華お前の事情は学校に伝えた。そして、お前が誰に言おうがそれは自由にしろ」
「…わかりました」
話はこれだけだったようで炎司さんは背を向けて歩き出した。正直拍子抜けだった。それは焦凍くんも同じだったようで、数回瞬きして驚いた顔をしていた。
「吃驚するほどあっさりした内容でしたね」
「そうだな」
彼は欠伸をこぼした。今日色々と付き合わせてしまったので疲れているのだろう。いくら鍛えていても、人混みの中に長時間いるとそれだけで疲れてしまう。昨日今日と訓練はお休みで良かった。と息を吐く。
「焦凍くん。今日は付き合ってもらってありがとうございます」
「どう、いたしまして」
「昨日も心配かけてしまって何かお詫びしたいのですが…」
冬美さんには何がいいだろうかと考えていると焦凍くんは、いらない。ときっぱり断った。
「姉さんは昨日の事詳しくは知らないし、俺もお前が無事だったからそれでいい」
「冬美さんの事口に出てましたか?それより話してないんですか?」
焦凍くんは頷くと私の目を真っ直ぐに見つめた。
「これからは出来るだけ、俺の目の届くところにいろよ」
「…そこまで心配しなくても…」
「そばにいると俺が安心する」
胸が大きく高鳴った。私を見つめる彼の視線に、彼から紡がれたその言葉に勘違いしそうになる。焦凍くんにとっては何ともない事かも知れないけど、私を狼狽えさせるには十分だった。
「そう言えば!学校ではどう接したらいいですか?」
私は彼の視界から目を逸らし、話を逸らした。
「どうって?」
「呼び方とか、この関係の事とか」
「別に今まで通りでいいだろ」
本当にいいのだろうか。と疑問に思うが本人が気にしてないようだし私も気にしないで今まで通りに焦凍くんに接する事にした。
私は明日の準備の為に焦凍くんよりも早く部屋に戻る事にした。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
いつもの会話なのに少しだけ緊張するのは先程の柔らかく目を細め私を見つめた彼の所為だろう。
彼のあの言葉はきっと家族として心配だからって意味なんだ。深い意味なんてきっとない。
なのに。
何でこんなに胸が締め付けられるの?
…だめだよ。早く寝て早く忘れないと。こんな気持ちは奥底にしまい込んでしまわないと。
アラームで目を覚ました。
真新しい制服に腕を通して鏡を見ながら髪を結ぶ。全身を確認して部屋を出る。
台所に立ちエプロンをつけ朝ごはんの準備を冬美さんとする。
「今日から学校だねぇ」
「はい。今から緊張してます」
焦凍もいるけど頼りにならなそうだしね。なんて冬美さんが軽く毒を吐いてると、炎司さんがダイニングへやって来た。
「おはようございます」
炎司さんに朝食を出す。炎司さんは無言でご飯を食べて出て行った。
なにか言われると思っていたので、出て行った背中を暫く見つめてしまった。冬美さんも拍子抜けだったようで、うわー。と声を出していた。
「何も言われなくて吃驚しました」
「私も吃驚したよー」
こんな事もあるんだね。と2人で笑い合ってると焦凍くんが降りてきた。
「なんかあったのか?」
「ふふっ、何もないよ」
朝から笑ってる私達を見て焦凍くんは首をかしげたが冬美さんに何もないよ。と言われて納得はしないものの席についた。
食卓に3人分の朝食を用意して両手を合わせて頂きます。と挨拶をして黙々と食べる。
「ご馳走様」
大体は焦凍くんが1番最初に食べ終わる。そして食器を下げてテレビをつけてニュースを見る。流れてくる映像に焦凍君が映った。
「焦凍くんがテレビに出てますね」
「体育祭の映像だろ」
「ひゃー今年も凄かったんだね」
流れるニュース映像に夢中になっていたら焦凍くんが時間はいいのか?と声をかけてくれた。ハッとして急いで食べ終わり、食器洗いを冬美さんにお願いして部屋に戻った。
鞄に必要必需品を入れて部屋を出る。お昼は格安で美味しい学食が提供されるとの事だったのでお弁当は用意しなかった。
最後にと姿見でもう1度全体を確認して部屋を出る。階段を降りて洗い物をしてる冬美さんに、行ってきます。と声をかけた。
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
「はい!」
玄関に向かうと焦凍くんはいなかった。一緒に行く約束も待ち合わせもしていた訳でない無いので、先に言ってしまったのかもしれない。どこかに行く時は必ず玄関で待っていてくれていたので、少しだけ寂しいが仕方ないとローファーを履き、玄関の戸を開ける。
「準備出来たか?」
「しょう、とくん?」
「行くぞ」
彼は肩からショルダーバッグを下げて玄関の前に立っていた。てっきり先に行ったんだとばかり思ってい為上手く声が出なかった。
そんな私に構うことなく焦凍くんはすたすたと歩き出す。置いて行かれないように慌てて歩き出して焦凍くんに並ぶ。
「先に行ったと思ってました」
焦凍くんは何も言わなかった。けれど待っていてくれた事実が嬉しくて無意識に口角があがった。
いつもと同じく会話がないまま学校に向かって足を進めた。
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