「2人の個性について詳しく教えて欲しい」
「そうだな」
2人はお互いの個性について知っているのだろうが、私は全く知らないし、梅雨ちゃんは私の魔法を知っていても障子くんは私の事を知らない。私達には敵の情報よりもお互いの情報を知らねばならない。
「まずは私からね。私は舌を伸ばしたり壁に張り付くことが出来るわ、あとは胃に入れていたものを出したりと蛙っぽいことは出来るわね」
「俺は複製腕。腕に自分身体の機能をつけることが出来るの。遠くの音も聞こえるな。それと本物の腕以外は斬られても複製できる」
「私はこのカードに基づいた魔法が使える。全部で52枚あるけどカードによって魔力の消費が変わるからあんまり強力なものはそう何度も発動させれない。まさにゲームのMPね」
2人の個性がわかったところで試合開始の合図が鳴り響いた。これから15分の内に3人の敵“ヴィラン”役を捕まえないといけない。私が空から見てもいいのだろうけどそれだとヒーローの居場所がバレてしまう。だとしたら…。
「障子くんをもう一人作る」
「そんなことが出来るのか?」
「…ミラーかしら?」
梅雨ちゃんの言葉に頷き封印を解除する。
「封印解除(レリーズ)!…彼の者の姿を映せ。“鏡(ミラー)”」
カードから鏡を持った女の子が出てきて障子くんをその手に持っている丸い鏡に移すと眩しい光を発しながら姿を障子くんその者に変えた。
「なんだ…俺が目の前にいるぞ」
「私の考えた作戦はこうです」
まずは鏡で障子くんをもう一人作ることによって敵に見つかっても、障子くんはその耳で私達に敵の居場所を予め先生からもらった無線で教え続ける事が出来る。私と梅雨ちゃんで敵の捕縛。
「仮に本体の俺が捕まったらどうするんだ?」
「そうね、私はそういうの出来ないし」
「その時は…うーん。臨機応変に頑張る感じでお願いしたい」
「考えるのを諦めたな」
障子くんの鋭い指摘に苦笑いしている梅雨ちゃんが、一足早く動き出した。それを見て障子くんと鏡になるべく建物に隠れているようにと指示をして私も走り出した。
物陰に隠れながらも敵役を探していると障子くんから無線が入った。それは私の近くに飯田くんが来ているという無線だった。
「飯田くんの個性は?」
「エンジンだ」
「足にマフラーがついていて兎に角走るのが速いわ」
「なるほど。この訓練にうってつけってわけね」
この訓練は単純な鬼ごっこだ。つまり技術云々よりもただ単に足が速い。それだけで勝ててしまう。飯田くんはその可能性が一番高い。
「梅雨ちゃんと私で止めた方がいいよね?」
「その方がいいわね…でも」
「他2人が疎かになっ…佐倉!委員長のペースだとあと5秒後には通過するぞ!」
考えている暇なんてない兎に角彼には足を止めてもらわないと!
「“砂(サンド)”!」
インド風の服を身に纏った女の人がカードから出てきて飯田くんに向かって砂の波を起こす。これで多少は走りずらくなるはずだ。この隙に“風(ウィンディ)”で捕縛する。
だけど私が考えた計画は飯田くんの個性の前では通用しなかった。彼は一瞬走るスピードを緩めたものの飯田くんは波をもろともせずに逃げ回る。
「飯田くん凄いな」
「感心している場合じゃないわ」
そうだよね。と反省してから飯田くんに追いつこうと“駆(ダッシュ)”を使い全力で走る。砂は私の足元を避けるように動くので砂の上で動く飯田くんに近づく事が出来た。
「飯田くん!悪いけど捕まえるからね!」
「この砂はヒーローが出したものなのか!だが俺は悪い敵だ!時間いっぱい逃げさせてもらうぞ!」
…飯田くん真面目だ。完全に敵役になりきっている。
けれども足を止めた飯田くんになら私にも勝機がある筈。足の動きを止めるにはマフラーを詰まらせてしまえばいい。
「“凍(フリーズ)”!」
「何?!」
氷の金魚が飯田くんに向かって空を飛ぶが、飯田くんはそれを避けるようにエンジンの勢いで高く跳び上がる。
「レシプロバースト!!」
「梅雨ちゃん!!」
「ケロっ!」
飯田くんが身体を回転させながら勢いをつけて私に蹴りを入れる前に、物陰に隠れていた梅雨ちゃんの舌が飯田くんの胴体に巻き付きそのまま地面に叩きつけた。
「ぐはっ!」
「悪いわね飯田ちゃん」
「確保!」
素早く飯田くんに捕獲テープを巻き付ける。そして飯田くんの頭に被っているマスクを取り右耳に装着されているインカムを拝借した。
「これで敵の情報が手に取るように分かるね」
「くそ!ヒーロー如きに捕まるなんて!」
「飯田ちゃん本当に真面目ね」
次は誰を捕まえようかと考えていると飯田くんが持っていたインカムから透ちゃんの元気な声が聞こえてきた。
“2人ともー!障子くん捕獲したよ!”
まさかと思いインカムで障子くんに話しかけると少し間があったもの本物の障子くんが無事だと返答してくれた。
「私が一旦障子ちゃんの所に行くわ」
「わかった」
梅雨ちゃんが動き出すその瞬間に飯田くんのインカムから焦凍くんの声が聞こえた。
“葉隠それは本当に障子か?”
“だってこんなに腕いっぱいあるのって障子くんしかいないよ”
“柚華さんの魔法って可能性だってある”
バレた。
“それが偽物だったとしたらそこから1番遠い所に本物がいるはずだ”
「梅雨ちゃん!」
「わかったわ!」
梅雨ちゃんが障子くんの所に行ったのを見送り、私も少しばかり本気を出そうと弁慶の泣き所まであるスカートをたくしあげて中に手を突っ込み、幅5センチ位の細長い布に手を伸ばす。
その布は釦の穴があいていて、エプロンに付いている釦をかければ、自分でスカートを持ち上げなくても細い布がスカートを落ちてこないようにしてくれる。
「佐倉くん。人前でそれはどうかと思うぞ」
「んー?見えてないから大丈夫だよ」
そういう問題なのだろうか。とぼやいた飯田くんを無視して“跳(ジャンプ)”のカードで建物の屋根まで飛び上がり焦凍くんが近くにいるかを確認すると障子くんから無線が入った。
「轟が動き出したぞ!」
「なんで分かるの?」
「葉隠は歩いてても音がしないんだ!」
なるほどこれは、強いチームが敵になってしまったようだ。機動力の飯田くん、戦闘要員の焦凍くん。そして最も見つかりにくい透ちゃん。
けど透ちゃん対策なら少しだけ考えがある。
だけどそれには焦凍くんがいたら余りにも厄介過ぎるから先に捕獲したい。
障子くんの指示通りにジャンプしながら行くと焦凍くんが歩いていた。
さぁ焦凍くん、勝負をしようか。
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