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「飯田くん!」

私がそう言うと同時に前にいた焦凍くんが左の高熱をヒーロー殺しに向かって放った。

「次から次へと今日はよく邪魔が入る」

焦凍くんが放った攻撃をジャンプして避けたヒーロー殺しは余裕そうな口振りでそう言った。焦凍くんはそれを気にすることなくスマホを取り出した。

「緑谷、こうゆうのはもっと詳しく書くべきだ。遅くなっちまっただろ」
「轟くんまで…!」
「なんで君が?!それに左を使って…それに柚華さんまで」
「なんでってこっちの台詞だ。数秒意味を考えたよ。一括送信で位置情報だけ送ってきたから…意味なくそうゆうことする奴じゃないからなお前は。ピンチだから応援を呼べって事だろ!心配すんな数分もすればプロも現着する!」

焦凍くんはそう言いながら足元から氷を出して緑谷くんと飯田くんともう1人のヒーローを持ち上げてこちら側に滑るように坂を作った。そして左手で炎を出してヒーロー殺しに向かって高熱を放ち皆からヒーロー殺しを遠ざけた。

「皆動ける?」
「ヒーロー殺しの個性にやられて体を動かせない」
「個性か…」

焦凍くんは皆の前に立ちヒーロー殺しを睨みつけていた。

「情報通りの形だな。コイツらは殺させねえぞ。ヒーロー殺し」
「私達が貴方達を全力で守ってみせる」

驚いた顔をした3人に向かって笑顔でそう言うと緑谷くんがハッとした顔で焦凍くんに向かって叫んだ。

「轟くん気をつけて!そいつに血ぃを見せちゃダメだ!多分経口摂取で相手の自由を奪う、皆やられた!」
「刃物で傷をつけて付着した血を取って動きを止めるのね」
「俺なら距離を保ったまま…っ!」

焦凍くんがヒーロー殺しから一瞬目を逸らしたその隙をついてナイフを投げつけた。そのナイフは焦凍くんの頬を掠り少量ながらも血が出た。

「焦凍くんっ!」
「いい友達を持ったじゃないかインゲニウム!」

短刀を放ると同時に素早く焦凍くんに近づいたヒーロー殺しは既に焦凍くんの目の前まで来て手に持っている刃物で焦凍くんを切りつけようとしていたが、私が魔法を出すよりも早く焦凍くんが氷を出してそれを阻止した。
一瞬暗闇に光るモノが見えた。

あれは刀?

「焦凍くん!上!」
「刀?!ナイフと同時に投げて…っ!」

私達が上を向いたその隙がヒーロー殺しが欲しかった隙だった。焦凍くんの胸ぐらを掴み自身に引き付けて頬から流れる血を舐める。これがヒーロー殺しが描いた戦法。

「あっぶねぇっ!」

しかし焦凍くんはヒーロー殺しが頬の血を舐める前に左の炎を出してそれを回避して更に巨大な氷を作りヒーロー殺しの動きを止めようとした。が、落ちる刀を取ったヒーロー殺しがその氷を壊してしまった。焦凍くんはそれに構うことなく次から次へと氷を作り出していく。

「何故、3人とも何故だ。やめてくれよ継いだんだ。僕が兄さんの名を継いだんだ。僕がやらなきゃ、そいつは僕がやらなきゃ」
「継いだのかおかしいな。俺が見た事あるインゲニウムはそんな顔じゃなかったけどな。お前ん家も裏じゃ色々あるだな」

炎と氷で何度も攻撃をするが壊されたり躱されたりして全くダメージを与えられない。
せめて数秒だけでも動きを止めたい。そしたら焦凍くんが何とかしてくれる筈だ。

「己より素早い相手対して自ら視界を遮る…愚策だ!」
「そりゃどうかなっ!」

焦凍くんが炎を出す前にヒーロー殺しが2本のナイフを投げつけ焦凍くんの左腕に刺した。

「腕が!」
「お前もいい」
「上?!」

ヒーロー殺しが狙っていたのは焦凍くんじゃなくて横たわっているプロヒーローだったのか!

「盾(シールド)!」
「なにっ!」

絶対防御の盾がヒーロー殺しの刀を弾いた。驚いたヒーロー殺しが高く跳ね上がると同時に緑谷くんがヒーロー殺しを掴んでビルに擦り付けていく。

「緑谷くん!」
「なんか普通に動けるようになった!」
「時間制限か…?」
「いや、あの子が一番最後にやられたはず、俺はまだ動けねえ」

という事は何かの法則があるという事になる。なんの法則があるんだ。血と言って思いつくのは血液型だが…。

「飯田くんとそこのプロヒーローは何型ですか?」
「俺はBだ」
「僕はA」

走って戻って来た緑谷くんに血液型を聞くと、Oと言っていた。量や人数ではなく血液型で拘束時間が変わるのかもしれない。

「血液型で時間が決まる…?」
「血液型…はっ!正解だ」

でも個性が分かったところでどうしようもない。結局血を吸われたら動けなくなるのだから。
それは前にいる焦凍くんと緑谷くんも分かっているようで、2人で作戦をたてている。

「轟くんは血を流しすぎている。僕が敵の気を引き付け続けるから後方支援を」
「相当危ねぇ橋だが…そうだな2人で守るぞ」

私抜きで考えている2人の間に入り両手でそれぞれの片手を握る

「2人、じゃないでしょ?私もいるんだから!大丈夫守るよ。後ろの2人も貴方達も」
「そうだな。3人で守るぞ」

何が何でも守ってみせる。そして飯田くんに復讐なんてさせない。

「3対1か甘くはないな」

緑谷くんが建物の壁を器用に蹴って素早くヒーロー殺しの懐に入り一発入れようとしたが、それを躱されてヒーロー殺しの刀が緑谷くんに届く前に焦凍くんが氷でそれを阻止する。即席にしては連携の取れたプレイだが、一瞬の隙に緑谷くんがヒーロー殺しの刀を掠ってしまった。

足を斬られて壁に寄りかかった緑谷くんにヒーロー殺しが刀を振るう。

「盾!」
「緑谷!」

緑谷くんの前に盾を作り焦凍くんが炎でヒーロー殺しを遠ざけた。それでも刀に付着した血を舐められてしまい緑谷くんが行動不能となってしまった。

「剣(ソード)」
「柚華さん?!何を!」
「私が前に出て戦うよ」

焦凍くんが炎でヒーロー殺しを遠ざけた隙にと1歩前に出ると飯田くんが微かな声で私を止めた。

「やめてくれ、もう…やめてくれ」
「やめて欲しけりゃ立て!!!なりてぇもんちゃんと見ろ!!!」

どんなに懇願されてもきっと守る事は止められない。きっと、それは人間の本質で、人をヒーローたらしめるものなのだから。

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