03




5時半にアラームが鳴るようにセットしていたがそれよりも早い時間で目が覚めた。もぞもぞと起き上がり昨日と同じ制服を着てリビングがある1階に降りた。そして昨日焦凍くんが開けた扉を思い出して、引き戸を開けると昨日目にした食卓があった為、完璧にリビングの位置を覚えた。と自信が持てた。

さて、着いたはいいけど冬美さんがいないから下手に冷蔵庫とか開けれない。

冬美さんが来るまで待とうか、それとも勝手にお台所を使ってなにか作ろうか。額に手を当てて悩んでいると後ろから柔らかい声で挨拶された。

「おはよう。柚華ちゃん早いねー」
「おはようございます。何かお手伝い出来たらなと思って」
「そうなんだ!そしたらお願いしてもいい?」
「はい!」

冬美さんと一緒に朝ご飯を作って、作り終える頃に炎司さんがリビングに入ってきた。
炎司さんが席に着くと冬美さんがお茶と新聞を食卓の上に置いて、先ほど作った朝食を並べた。
私は昨日のお礼と今日必要なものを買ってくることを報告しようと声をかけた。

「おはようございます。昨日はありがとうございました、いただいたお金で今日必要なものを買ってこようと思います」
「…柚華の持っている携帯は使えるのか?」
「料金が発生しないアプリは使えました。なので今は目覚まし時計位の機能しかありませんが」
「…部下に新しいものを用意させよう」

え?携帯までくれるの?流石に悪すぎじゃないかな?やっぱりアルバイトとかして少しでも家にお金入れた方がいいよね。絶対に。

「そこまでしてもらう権利は私にはありませんし、仮に新しいものを頂けるとしたらやはりアルバイトして自身で支払わないと気が済みません」
「今は学業に専念しろ、その為に必要なものだったらいくらでも出す」

どうしよう。話が通じてないのかな?それとも遠まわしにアルバイトの話却下されてる?それともその両方?私が項垂れていると冬美さんが声をかけてくれた。

「柚華ちゃん、私達家族なんだから少し位甘えたっていいのよ?」
「家族?」
「焦凍の婚約者って言うのは一先ず置いといて、家で面倒を見るって決めたんだもの、もう立派な家族でしょう」

だから甘えてねって笑う冬美さんは幼い頃に亡くなった朧気にしか覚えてない母の面影と重なって、胸がぎゅっと締め付けられた。

家族だから甘えてもいい、かぁ。

私は炎司さんの顔をしっかり見て今度こそとお礼言った。

「携帯電話よろしくお願いします」

その一言を聞くと炎司さんは箸を持ち朝ご飯を食べ始めた。私は台所まで戻り、冬美さんにお礼と今日の予定を聞いた。

「さっきはありがとうございます。冬美さん今日予定とかありましたか?」
「あぁー買い物ね。ごめんね今日は学校に行って終わらせないといけない仕事があるの」
「そうなんですね。分かりました!お仕事頑張ってください」

さて、どうしたものかなんて悩んでいると冬美さんが焦凍と行ってきなよ。と提案してくれた。
今日は土曜日だし学校もお休みだろうから誘ってみようかな、と思い冬美さんにお礼を言った。
ふと食卓に目をやると既に炎司さんはいなくて空っぽになった食器だけが残されていた。

「は、早い」

冬美さんが慣れたように食器を片付けている辺りこれが当たり前の光景なんだろう。
食器を洗っていると今度は焦凍くんがリビングに入ってきた。無愛想だけど寝惚け眼でこちらを見る焦凍くんはなんだか可愛くて癒される。炎司さんの後に見るから余計そう思うんだろうな。

「おはようございます」
「おはよう。朝早いな」
「お手伝いしようと思って早起きしました」

冬美さんにも挨拶をしながら自分のお茶碗にご飯をよそって、お椀にお味噌汁まで自分でよそっていた。寝惚け眼だからか、見てるこっちがはらはらしてるくらいぼーとしながらだったが、やっぱり冬美さんは何も言わないからこれが普通なのだろう。

「いただきます」

3人で食卓を囲んでご飯を食べた。因みに今日の朝ごはんは、白米にわかめの味噌汁。昨日の煮物と金平牛蒡に今朝作った卵焼きだ。純和食で素晴らしい。

「なんかいつもの卵焼きと味が違う」
「今日はね柚華ちゃんが作ってくれたのよ」

だからか。と一言呟くとまた黙々とご飯を食べ始めた。美味しいも不味いも言わないんだーなんて思いながら食べてたらどうやら焦凍くんは先に食べ終わったらしく食器を重ねて台所に運んでいた。

このままだと誘い損ねてしまう。

私は席を立って焦凍くんに近づいて話しかけた。
どうか断ってくれませんようにって祈りながら。

「焦凍くんは今日忙しいですか?」
「学校が終われば少しは時間がある。今日は午前しか授業がないからな」

土曜日も授業があるのか、あなたが行っている学校は。
そしたら焦凍くんお疲れだよね。そんな中買い物に付き合ってくださいとは言いづらいし。冬美さんに地図書いてもらえば行けるかな?

「今日どうかしたのか?」
「もし時間があるのならお買い物に付き合っていただきたかったんですが、授業があるとは思わなくて」
「午後でもいいなら付き合う」

いいんですか?と思わず大きな声で聞いてしまった。焦凍くんが少し目を大きくさせるくらいの勢いだったみたいで、急に恥ずかしくなり赤くなっているであろう頬を見られないように下を向いた。

「すみません。大声出して」
「いや、いいが、一旦家まで戻ると逆方向なんだ」
「それでしたら、焦凍くんが終わる時間めがけて高校に行きますよ」
「場所わかるのか?」

ほんの僅かに首を傾げた焦凍くんの目は疑問に満ちていた。表情の変化が乏しい人だけどじっくり見てればなんとなくだけどわかる気がする。高校の場所がわかるなら1人でもショッピングモールに行けるんじゃないのか?って思ってるんじゃないかな。いや、焦凍くんに限らず皆が思うことか。

「高校の場所は知りませんが、焦凍くんがいる所なら案内してくれるものがあるんです」
「それも魔法か?」
「はい」

そうかと、納得してくれた焦凍くんは待ち合わせ時間と場所を告げたらそのままリビングから出て行った。

「良かったわね」
「はい。助かりました」

冬美さんはニヤニヤしながら食べ終わった食器を持って台所にやって来た。
そんなに嬉しいことがあったんだろうか?なんて考えてると冬美さんが、よかったね。ともう1度繰り返した。

「焦凍と仲良くしてくれてるみたいでよかった」
「向こうが歩み寄ってくれているので」
「そうだとしても、ありがとうね」

そう言うと冬美さんはリビングから出ていった。私は食べ残した朝食を食べて皆の分の食器を洗って食卓を綺麗に拭いてると、冬美さんが申し訳なさそうな顔して扉からこちらを覗いていた。

「どうかしましたか?」
「ごめんね。もし時間があったら洗濯物洗ってほしいの。洗濯機はお風呂場の横にあって、干す部屋もその横にあるから。あと鍵は玄関に置いとくね」
「わかりました。もう行く時間ですか?」
「そうなの。お願いね」

行ってらっしゃいと誰かを見送るのは久しぶりでお腹の奥がムズムズして変な感じだったけど、冬美さんが手を振りながら笑顔で出勤していくのを見たらこの感覚に早く慣れたいな、なんて思っていた。でもそれと同時に慣れてしまった時に誰もいないあの家に帰ったら、きっと寂しさで潰れてしまう気がして慣れない方がいいのではないか。と心に影を落とした。

さて、洗濯物しますか。

冬美さんに言われた通りに洗濯して、洗濯機が頑張ってる間に脱衣場周辺を彷徨いて家の地理把握に務めた。一般家庭より広い家だから覚えるまでに時間がかかりそうだけど、冬美さんのお手伝いしていたら案外覚えるのも早いのかもって思えてきた。
私は洗濯機に呼ばれた為来た道をよく見ながら引き返して洗濯物をとりこみ隣の部屋に異動して干していった。全部干し終わって時計を見ると約束の時間まで時間があるので自室に戻って勉強しようと足を進めた。



ピピピピピと電子音が聞こえてiPhoneを見ると家を出る時間になっていた。思いの外勉強に集中していたらしくアラームをかけていなかったら約束の時間に間に合わなかったと思う。

よかった。アラームかけといて。

勉強に使っていたノートを1枚破って、呪文を唱える。

「我を彼の人の処へと案内せよ。名を轟焦凍」

1枚の紙が鳥になって窓から外に飛び出した。私はその鳥の後を追うため玄関に行き、靴を履き、鍵を杖に変えてフライのカードを発動させた。

鳥ってことは学校まで結構距離あるんだなぁ。

紙の鳥を追いかけて空を飛んでると急に鳥が下降して1人の男の人の肩に止まった。ツートンカラーの髪色の彼は急に自分の肩に鳥が止まったことに驚いたはずなのに、ちらりと鳥を見るとすぐに手元にあるiPhoneに視線を向けた。その様子は私は見えてないわけじゃないんだよね?と不安になってしまうほどであった。

取り敢えず地上に降りなければと降下しながら声をかけた。

「焦凍くん。ごめんなさい、待たせてしまいましたか?」
「そうでもないぞ。俺もさっき着いたばかりだ」

地面に足を着地させて焦凍くん様子を見ても平然としている。さっき私が空から降りてきても、話しかけても平然とした態度をしていた。普通は空から降りてきたらもう少し吃驚すると思うんだけど、この世界じゃ当たり前なのかな?それとも焦凍くんが冷静なだけなのかな?

「一応言っておくが外での個性の使用は禁止だ。お前の場合個性ではないが一応伝えとく」
「分かりました。ありがとうございます」

それだけ言うと焦凍くんは歩き始めた。普段からあまりお喋りをするような人には見えないので、話しかけてもいいのか躊躇してしまう。話したいことがあるけど、今まで基本的に必要以上の会話をしてないからどんなものが好きだとかわからない。相手の好きな事だったら自然と話してくれるかなと思ったのに。

制服姿似合うなぁ。怪我の後があるとは言え普通の人より容姿が整ってるもの。きっと女子に人気なんだろうな。

まじまじと見ると変態とかって思われるかもしれないと、思い周りの景色を見ながら、彼と私の関係性とこれからの事について考えてみた。婚約したと言っても、当の本人が嫌がっている限りそのうち破棄になる、筈だ。でも、炎司さんのあの様子だと冗談抜きで結婚させたいのかも知れない。大体なんで私なんだろう、魔法が使えるから?引き継げるのかとか聞いてたから自分の血族に魔力のある人が出ることを望んでいるのか。でも自分に魔力がつくわけでもないのに。
炎司さんが何を考えているかなんか分かるわけもなく、目の前にいる彼に聞くわけにもいかずに目的地までの道のりを覚える事だけに集中した。

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